【第29話】            健一の家と「スタイニー」の夢


📖 前回のあらすじ

タイムスリップ初の日曜日の朝。宮本家では「違いがわかる男」や「クリープのないコーヒーなんて」とCM気取りの父親と、それを一蹴する母親の夫婦漫才が炸裂。竜二は買ってもらったゲイラカイトを胸に抱き、健一の家へ走る――。



竜二が家を出て健一の家に向かっていた頃、健一の自宅の居間では父親と母親の切実なやりとりが繰り広げられていた。

「頼むよ母さん、今回だけ頼む!」

「先週も源さんと飲みに行くと言って3千円渡したじゃない!」

台所で仁王立ちする母親に、父親が手を合わせて必死に拝み倒している。

「二千円でいいんだ、今日はなんか勝ちそうな気がするんだよ」

部屋から出てきた健一が「……パチンコ?」と口を挟むと、母親が呆れたように溜息をついた。

「そうよ、どうせ負けるに決まってるのよ。いつもがっくり肩落として帰ってくるのに」

「今日はチューリップが開きまくる夢を見たんだよ だから今日は勝つよ だからお願いします!」

父親のあまりの必死さに、母親は腰に手を当てて深く息を吐き出した。

「もう月末なんだからね 今回だけだからね」

「ありがとう 勝ったら何欲しい」

お札を受け取った父親が途端に好々爺のような笑顔になると、母親は少し考えて言った。

「そうね 美容体操器の『スタイニー』でいいわ」

「わかった 健一には前に言っていた 8段変速のウインカーが付いたサイクリング自転車買ってやるからな」

当時は男子小学生の憧れだった、流れるウインカー付きのド派手なスポーツ自転車。中身が62歳の健一は、苦笑いを浮かべながら言った。

「期待しないで待ってるよ」

すると父親は、テレビCMの真似をして独特の変なカタカナ英語で言い放った。

「ワタシニマカセテクダサイ、ドゾ ヨロシク!」

『スタイニー』の外国人社長のモノマネをノリノリで決め、父親はパチンコ屋へと出かけていった。

そこへタイミングよく「健一ー! 遊びに行こうぜー!」と、ゲイラカイトを抱えた竜二が到着するのだった――。