📖 前回のあらすじ
学芸会に向け『走れメロス』の準備を開始した6年3組。健一や竜二はガリ版刷りのわら半紙台本に苦戦し、現代の利便性を痛感する。元編集者の弘子が台本をブラッシュアップし、元ポルノ看板職人の琢磨はプロ並みの画力で豪華な舞台背景を描き上げた。大人たちの本気の技が集結し意気込む三郎だったが、最後はズボンのチャック全開を指摘されて大爆笑。ドタバタの中で劇の練習が動き出したのだった――。
【四十九話】 走れメロス練習開始!熱血指導と三郎の暴走
昭和五十一年二月下旬。放課後の体育館に、三郎の怒号が響き渡っていた。
「健一! もっと迫真さを出せよ! セリフ棒読みやぞ!」
「おいおい……三郎、そんなこと言われてもな……」
わら半紙の台本を手に困惑する俺(健一)を余所に、主役のメロスを演じる三郎の「指導」は止まらない。大部屋役者としての血が騒ぐのか、とにかく熱量が暴走していた。
「太陽! お前ももっと悪ぶってくれ! ディオニス王の冷酷さが出てへんぞ!」
「チッ……注文が多いな……」と眉をひそめる太陽。
さらに三郎の矛先は、舞台脇でポツンと立っていた竜二へ向かった。
「竜二! お前は木の役だけどな、ただ立っとったらええんちゃうぞ! 木の気持ちになれ! 『何故、私はここに立ってるんだ』……そう考えて立てよ!」
「はぁ!? 木の気持ち……!?」
呆れる竜二を無視して、三郎はステージ裏に立てかけられた背景の模造紙に目を向けた。そして、ガシガリと頭を掻きながら大声をあげる。
「あと、琢磨! お前が描いた背景、確かに上手く描いてるけど……なんか女性の絵がやたらエロっぽいねん! こんなん親が見たらどう思うねん! PTAも来るんやぞ!? クレーム入れられるわ! お前ホンマにアクション映画の看板描いてたんか? 成人映画と違うんか!?」
図星を突かれた木村琢磨は、顔を真っ赤にして跳び上がった。
「な、な、なにをーっ!! 俺は売れっ子看板描き師やったんや! 成人映画なんて描くか! ええ加減にせいっ!!」
(※ほんとは日活ロマンポルノ専門だったが、そこは死んでも伏せておこうと琢磨は心に誓った)。
現場の空気は完全に冷め切り、ついに竜二が台本を床に投げつけた。
「もうやめや! 俺たち本当の役者じゃないのに、木の気持ちなんて言われてもわかるかよ!」
「そうやそうや!」「俺もやめや! 三郎きつすぎるわ!」
男子たちが一斉にカバンを持ち直し、ゾロゾロと体育館の出口へ向かい始める。
「おい! 待てよみんな! もう学習発表会は近いんだぞ! ここでやめたらどうするんだよ!」
俺(健一)が慌てて呼び止めるも、みんなの足は止まらない。学級委員長の松田裕子も手を広げて必死に呼びかける。
「みんな、頑張ろうよ! ダメよ帰ったら!」
佐藤美由紀も困り顔で三郎を諌めた。
「三郎君、言い方がキツすぎるよ。みんなに謝って……」
水野薫も頷きながら優しく諭す。
「そうよ。みんな頑張ってくれてるわ。みんな演技なんてやったことないもの。三郎君みたいにプロじゃないのよ」
しかし、追いつめられた三郎はプイッと横を向いてしまった。
「うるさいなー! もうほっとけ!」
夕暮れの体育館に重苦しい沈黙が落ちる。本気すぎる大人の情熱が裏目に出て、劇の練習は開幕早々、バラバラになりかけていた。
果たして『走れメロス』は無事に舞台の幕を上げることができるのか……!?
本日も最後までご覧いただき、本当にありがとうございました!
学芸会の練習で、熱が入りすぎて周りと温度差ができちゃったり、先生や友達に怒られて気まずくなったり……そんな思い出、みなさんにもありませんか?
それでは、また次回の『六年三組のタイムカプセル』でお会いしましょう。
サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ……!
