まさにお盆真っただ中だったせいか、
上野鈴本演芸場夜公演は立錐の余地もないほどの大入り満員。
ついでに席が昔の純日本人体型に合わせて作られている(かどうかわからんけれど)からなのか、
身を縮めながら身動きもできないような賑わいぶり
・・・ビール一缶呑むのにも遠慮しなければならないような寄席の混雑はいいのか悪いのか。
もちろんこの八月中席夜公演の賑わいはお盆の真っただ中だけが原因ではない。
いわゆるお盆時期の企画ものであるこの十日間は
『納涼名選集鈴本夏祭り吉例夏夜噺』と銘打たれた特別公演で、
とにかく出演メンバーが豪華なのだ。
さん喬と権太楼が日替わりでトリを務め、それも事前に演目が発表されているので
それだけでも芸達者な二人の「その演目」を見に行くのは楽しみなのだけれど、
その前を務める面々がいきなりの三三だったり、一之輔だったり、市馬だったり、
そして喬太郎だったりと・・・
今をときめく客を呼べる真打が15分程度の持ち時間で顔見世しながら、
爆笑をさらっていくのだからたまらない。
トップバッターも前座さんなんかではなく、いきなり真打の
柳家さん助「十徳」
次の三三が言ってたけれど、「いきなり隠し球が飛んできた」そんな感じの芸達者がトップバッターだった。
若いあんちゃんがご隠居から聞き入れた蘊蓄話を
したり顔でしゃべろうとするが、よくわかっていないだけに混乱してくるという
よくある噺の言葉遊びがおもしろい。
柳家三三「元犬」
この人のひょうひょうとした感じが好き
犬のクセが直らない人間になり変わってからの
三三のしぐさが犬に見えてしかたがなかった。
春風亭一之輔「代書屋」
お、膝隠しがでてきた・・・上方落語が始まるのか・・・と思ったら
一之輔だった。なんでも膝を痛めて、
診てもらった医者が「あなたの膝小僧の皿が小さくて・・・」と言いたかったらしいけれど
「あなたの器が小さくて」と言われたなんぞという、自虐マクラがよく似合う。
『代書屋』の出色は、やはり上方の枝雀につきる。
「セーネンガッピ」の件りは、枝雀くらいやらないとばかばかしさが伝わらない。
一之輔の『代書屋』はどちらかというと、
代書屋のクールさが逆に面白みに繋がる持って行き方だったように思う。
柳亭市馬「花筏」
以前、喬太郎がやっていた花筏が、
まさに自分の体型と同期させての爆笑話。
痩身の市馬は行事の呼び出しの声色から始まったが
これがまた上手。うまく土俵の雰囲気を作り出していた。
柳家喬太郎「義眼」
短い噺なんですってね、それをマクラふり損ねて
『あと五分で終わっちゃうよ』なんていう心の声を大にして叫びながら
舞台を転がり回るのも、喬太郎にとってはきっと芸のうちなんだろう。
なんだか、上野動物園のパンダ小屋の前にいるみたいに
微笑ましく、愉しい高座であった。
露の新治「兵庫船」
前半のトリは、上方落語新治師匠の「兵庫船」
古典の面白いのはその時代の市井の人々の
人間模様が垣間見えるところで、
この「兵庫船」も同じ渡し船に乗り合わせた人たちの
賑やかな風情が、上方言葉に乗せて軽やかに表現されていた。
関西風なぞかけも、噺の中に盛り込まれることによって
面白おかしく旅をしようという旅人たちの趣向が愉しく伝わってくる。
仲入り
休憩中、ロビーに賑やかな若い集団が集っていた。
ふと見てみると、なんと自民党若手代議士の小泉進次郎氏が来場。
取り巻きがおよそ5、6名ほど。SPなのか、お友達なのか・・・
へぇ~、落語に、それも寄席に来るんだ・・・
閑話休題
柳家権太楼「花見の仇討」
本日のラス前は権太楼
「花見ネタは春にしかやらないのよ。
春にやって、しばらくほっとくから忘れちゃって・・・
だから、これくらいの時期に一度やっとかないと」という愚痴から始まった「花見の仇討」
とにかく、この人のとぼけた感じがいい。
ボケてんのかとぼけてんのかよくわからない・・・
長屋の熊さん、はっつぁん的にアンポンタンでんびりした感じと
はったり仇討にひょんなことから巻き込まれてしまった助太刀お武家の緊迫感との
そぐわなさの落差に笑いが生まれる。
本日の大トリ
柳家さん喬「中村仲蔵」
志の輔の「中村仲蔵」を知っていたからかもしれないけれど
「歌舞伎 忠臣蔵」の前知識があるおかげで
さん喬が語りきれない部分を補いながら見ることができるのは大きい。
もちろんすべて語り上げる、なんて独演会じゃないんだからできないのは当たり前
さん喬のこの噺は、特に仲蔵の「弱さ」に焦点が当たられているみたいで別の味わいがある。
仲蔵を支える女房が出色だ。
嫌がらせで当てられたチョイ役にふてくされる仲蔵に
「あなたの斧定九郎が見たいのよ」と励ます女房。
自分の定九郎を舞台でやったはいいが「しくじった」と意気消沈して帰ってきた仲蔵が
しばらく上方へでも行ってほとぼりを冷ますと弱気になっているのを
「私は大丈夫だから行っておいで」と気丈に送り出す女房。
なんだか、「芝浜」のウソをついてでも夫を支える妻を思わせられた。
さん喬の人情噺、実にいい味出している。
寄席があがって、鈴本前で鳴る締太鼓に送り出され、気持ちのいい夜だった。