こうして日々は過ぎてゆく。けれんみ

 

もなく、朝に陽が昇り、夕に陽が沈む

 

ように。昔、煙草の匂いがしていた

 

ように、永遠という虚しい言葉を残して。

 

 

涙を流して、ずっと坐っていたことは

 

あったのだろうかと、そういうことも

 

忘れてしまっている。君が僕を必要と

 

し、僕が君を必要とした、そのいつか

 

立ち止まって見つめ合った時があった

 

とは、誰かに聞いた話であるかのように

 

自分のことではなくなった。

 

遠く、遠くなった。

 

けだるく、蒸し暑い午後に、僕は立ち

 

上がって出発するのだろうか。今度

 

こそどこでもない場所に住もうとして、

 

山や海、動物の自然公園を歩き回る

 

つもりなのか。一度つまづいた道を

 

また辿るつもりなのか。

 

この悲しみとも言えない郷愁を、僕

 

はまだ抱いている。どこにも辿り着け

 

ないのは、その初めから知っていた。

 

それは問題ではなかった。

 

どこかに着くことは、計画にはない

 

から。どこか山小屋のような粗末な

 

家で紅茶を飲むのが目的でもある

 

ような、ないような、どこにも

 

着かないし、なにかが得られるの

 

でもなく、なにかに満たされたいの

 

でもなく、知らないもの、見えない

 

なにかを報せる、季節のすき間を

 

思わせる風がある。そういう風に

 

吹かれたい。

 

 

人生という夢が壊れてもかまわない。

 

壊れない夢はここにある。人に慰め

 

られたら、驚いてしまう。そんな風に

 

人から見えているのだろうかと、

 

自分の横顔に興味を抱くかもしれない。

 

 

語られる神話はいい枕になるだろうか。

 

過去の叙事詩は君の肩の荷を下ろすの

 

だろうか。笑ってごらん、と頬笑んで

 

静かに言われるだろうか。

 

どこかに物足りない気持ちがある。

 

なにも求めなくていいのは、それだろ

 

うか。気がつくと、ささいな喜びが

 

ある。寂しさがないのは、その所為だ

 

ろうか。

 

バスケットになにか忘れ物をしていな

 

いかと、考える。その時間が愛おしい

 

と感じられるのは、ふとした気づき

 

だからだろうか。それとも、その時が

 

なにも満たさず、なににも満たされない、

 

有意な時ではなくて、無為の時だから

 

だろうか。自分でも、誰からも振り返

 

られることのない、すぐに忘れられ、

 

気づきもされない、僕らの心に密着

 

するもののない、触れることもない

 

空気のなにかの厚さが去ってゆく。

 

 

過去は変えられない。思い出がそれを

 

引き留める。与えられたものがあった

 

と思っている。入口もそこからの道も

 

見えていたし、いくつもの入り口も

 

あると思っていた。振り返ると、この

 

道しかないとわかる、そういう気が

 

する。その道を辿ったことが重要に

 

なる。選んだつもりだったのに、その

 

流れに自分は棹差さなかったのを知る。

 

なにかをするよりも、その流れに従う

 

という気分が暖かく感じた。その時は。

 

 

こうして部屋の空気が整ってくる。

 

まとまって哀愁を帯びるように、森や

 

木陰、木洩れ日が情景をやさしく描き

 

だす。あなたはここにいますか、とい

 

う声がして、僕は浅い息をしているの

 

を感じる。それは深呼吸になる。

 

窓の外に無闇に広く、アフリカまで

 

届く霧が流れているように息づいて

 

いるのに気づいて、思わずその黒い

 

夜を見つめる。

 

 

永遠の粒子が拍子をとっている。

 

そこから夢が漏れていて、こちらで

 

荘厳な気配に変わってしまう。

 

もう帰ってきなさい、という亡き母

 

の声が聞きたいと思う。そこで正気

 

になるのだろう、とても素朴では

 

ない、あまりに僕らが僕らである

 

という現実が前にある。この部屋に

 

ある。 ここに。 

 

 

ラプシャ  ペタヒン 

 

階段  紗 

 

You needed Me

 

走る馬の 記憶 

 

顔と 世界を 前にして 

 

永遠と 鏡に

 

向き合う