ギターの撥ねる音が 

 

床を伝って  流れている 

 

黒い 艶が  光って 

 

赤ん坊の 僕に  聴かせている 

 

 

半透明なビニールの 幕が 

 

ちらちら 外の世界を のぞかせ 

 

うまく 切れ目を  いれてある と 

 

思わせる 

 

 

1週間前の  僕は  もう 

 

ダメなんだろう 

 

だからと言って なにかが 

 

成就するようには それが 

 

生成しているようには 見えない 

 

ちょっと おどけて 

 

待って  見せてくれよ と 

 

指を くるくる 回して 

 

見せるが 

 

ダメなものは  ダメなんだ 

 

 

これが 心の 過渡期という 

 

やつ なんだろう 

 

なにがどうだという  その

 

手ごたえが あるのじゃない 

 

なにも この生活にも 

 

変わった変化が  見られるの 

 

じゃないが 

 

蝉の 抜け殻になった 

 

自分を つまんで 

 

眺めている 気分だ 

 

 

今までは 自由な気分が 

 

書かせていた と  気づく 

 

今は 歩いてゆくのに  平気だが 

 

心の重さを  感じずには 

 

いない 

 

いくらでも 書こうなんて 

 

思えない 

 

弱り果てて 道端に 

 

倒れ込んでゆく 見えない

 

人々が  透明な影のように

 

折り重なるのが  

 

見えるようだ 

 

 

この幻影が  僕に  

 

まとわりついて 

 

契約の紙を  差し出して 

 

債権者の顔を したように 

 

傲慢な笑いを  押し付けて来る  

 

 

死者が 群がりはじめた 

 

にぎやかな 神社の 

 

出店の間を  探し始める 

 

君は  1985年の  亡霊か  

 

なるほど 

 

僕が 君を無視した と 

 

きっと 僕は  急行列車から 

 

君を 一瞥しただけ なんだよ 

 

失礼したね もう  忘れて 

 

君が  その列車に 

 

飛び乗れないのは

 

わかっていたんだよ

 

 

君は飛び乗っても  よかった 

 

あの時  よかったんだ 

 

でも しなかった 

 

できなかった  それだけだ 

 

 

そういう出来事が  あった  

 

ああ 多くの人を  僕は  

 

見てきた  

 

立ち止まるには  あまりに 

 

多い  3万人の 亡霊たち 

 

君らを  救うには 

 

今手を貸しても  無駄だと思った 

 

この先を  そういう体制に 

 

しなければ と思ったんだ 

 

だから  先を  急いだ 

 

 

そして  なにかできたことが

 

あったとは 

 

思えない  

 

そんな むなしい  事態を 

 

迎えている 

 

過渡期が 何も判断できないし 

 

しても 中途な混乱を 

 

述べる、 そう わかっては 

 

いるんだが 

 

まだ 

 

ここに 

 

いるんだよね 

 

 

それには 理由がなくても  

 

その理由を  創造する  

 

生き方が  これから ある

 

と 思えたら? 

 

まだ 思えない 

 

けれど 

 

そんな許しを  自分に 

 

求めているのだと 

 

したら? 

 

 

駅は 遠い  

 

もう ないのかもしれない 

 

 

その 存在さえ 

 

 

 

 

:::

 

独り言ちの日記を書きながら、

 

昔の妄想を思い出した。

 

沖縄から帰ってから多くの

 

亡霊に見舞われた時のことだ。

 

アフリカのブードゥー教の

 

呪術師は患者の病気を妄想と

 

見なす。小さな人形を見せて

 

あなたの病気はこの中に封じ

 

込められた、その人形は消され

 

てしまう。もうこれで病気は

 

去った、と患者に伝えられる、

 

という具合に。

 

それで治るのか。治る。

 

部族のものは呪術師を信じて

 

いる。その村の文化では絶対だ。

 

実際に効いてしまう。

 

未開土人に歯磨き粉を飲ませ

 

ると風邪熱も収まってしまう

 

のと似た現象だろう。

 

現代人の妄想はどうだろう?

 

医学は知らないが、自分のこ

 

とはわかる。

 

僕は妄想と対決して、自分が

 

したいように話させて、それを

 

否定しない。気が済むまで

 

妄想とつきあう。発熱した沖縄

 

から帰ってからまだ微熱が続い

 

て、その時に感じた数万人の

 

亡霊に話しかけた。3日3晩、30分

 

くらいずつだったろうか、元居た

 

場所に還るように説得した、暗い

 

夜の河原で。微熱に浮かされながら。

 

(このエピソードを書くのも何度目

 

だろうか)

 

対象が何であれ、見るようになっ

 

たら、解決は近い。それに対する

 

まではまったくの闇の不安を相手

 

にしなければならないが、姿らし

 

きに目が行くようなら、問題が

 

見え始めたことだ。

 

この過程を熟知しているから、

 

異常な状況でもただ何もせず

 

にいて、ただなにもないことを

 

耐え抜くことができる。

 

それでもまだ、道は半ばだ。

 

これも過渡期のひとつの種類

 

なのだろう。