中納言の君は、古人の問はず語り、
みな、例のことなれば、おしなべて
あはあはしうなどは言ひひろげずとも
いと恥づかしげなめる御心どもには
聞きおきたまへらむかし、と推し
はからるるが、ねたくもいとほしくも
おぼゆるにぞ、またもて離れては
やまじ、と思ひ寄らるるつまにも
なりぬべき。
(源氏物語 椎本の巻より)
「薫」の出生の秘密を知る老女房の「弁」
は、薫に昔話を語っています。話を聞き
ながら、薫は、考えています。
こうした老人の問わず語りは、世間一般の
ことだが、誰にでも軽々しく言いふらしたりは
しないだろう。しかし、姫君たち(八の宮の娘姉妹)
は、秘密を知っているのではないだろうか。
私が光源氏の子ではなく「柏木」の子である
という秘密が、世間のうわさにならないように
やはり、姫君たちを私の味方にしておくべきだ
と、思い立った。
薫は、とても実直な性格というイメージ
ですが、案外、腹黒い面もあるのかも
知れません。