夕暮の霞の紛れはさやかならねど
つくづくと見れば、桜色の文目も
それと見分きつ。げに散りなむ
のちの形見にも見まほしく、にほい
多く見えたまふを、いとど異ざまに
なりたまひなむ事わびしく思ひまさらる。
若き人々のうちとけたる姿ども
夕映えをかしう見ゆ。
(源氏物語 竹河より)
美しい姫君「大君」は、桜色の衣装を
まとっています。その姿を垣間見た
「蔵人の少将」は、その美しさに感激
して、形見として永遠に心に残して
おきたいと思うのです。大君はまもなく
手の届かない所に行ってしまうからです。
桜色に 衣は深く 染めて着む
花の散りなむ のちの形見に
(古今和歌集 紀有朋)
桜色に衣は深く染めて着よう。
花が散った後の形見として。
大君に熱い想いを寄せる蔵人の少将は
この歌が、心に浮かんだのでしょう。