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こんにちは、藤岡みなみです。
今月は神戸、京都、大阪、札幌、旭川、千歳、金沢・・・と、いろんな場所を訪れました。
移動中に欠かせないものが小説。
読書は、家の中やカフェもいいけれど、電車や飛行機などの移動中が最高ですよね。


私は一旦ある作家さんを好きになると、その人の作品を読みほすまで他の人の本に浮気できない癖があります。ストーリーもそうだけれど、なによりその作家さんの文章に惹かれるという感じで、その文章に触れていたくて、浸かっていたくて、他の作品も読まずにはいられなくなってしまうのです。

いままでそのパターンになってしまったのは筒井康隆さん、桐野夏生さん、田口ランディさん、貴志祐介さん、森見登美彦さん、山田詠美さん、川上弘美さんなどなど。エッセイでは松尾スズキさん、宮沢章夫さん。

そして最近新たにハマったのは沼田まほかるさん。
最近いろんな賞をとられていたり、本屋さんでも平積みで特集されていることが多いので、ずっと名前は気になっていました。
デビューは割と最近で全作品でも6冊ほどなので、ハマってから制覇まですぐでした。うう。。もっとこの人の作品が読みたい!


ということで今日は沼田まほかるさん特集記事ですが、ネタバレに気をつけつつ抽象的にふんわりご紹介します。


大阪府出身で、主婦、僧侶、会社経営を経て小説家デビューという経歴を持つ沼田さん。僧侶のご経験が最もわかりやすく作品にあらわれているのが『アミダサマ』ではないでしょうか。出版された順に読んでいったので、この作品が4冊めでした。読み始めてまもなく、「おお!これは・・・」と、前の3冊とは明らかに違う匂いを感じました。普通の小説とのいちばんの違いは、仏教の世界観が登場するところでしょうか。あえて親しみやすい表現をさせて頂くなら【仏教ファンタジー】と私は呼びたいです。明らかにフィクションなんだけれど、なんだかどこか現実とつながりがあるような、不思議な気持ちになります。

『九月が永遠に続けば』『彼女がその名を知らない鳥たち』この両作品は、沼田さんの本を手に取るきっけにも、沼田さんの作品にハマるきっかけにもなりました。まずタイトルが詩的。きれい。この2作品を一気に読んで、沼田さんの文章の美しさに虜になりました。感覚的なもの、頭や身体で感じていることが、言葉で綿密に描かれちゃってる。理性ではなく皮膚感覚で共感する感じ。人間の欲望とか汚ない部分も、目を覆いたくなるほど赤裸々に描かれていたりして、ゾクッとしたり胸がひりひりしたり。あの桐野夏生さんも「ここまで書くか」と言ったそうですが(これは褒め言葉ですね)。

『彼女が~』は、きれいごとが1%も含まれない、正真正銘愛の話だと思いました。それがまるっきり正反対の角度から描かれているから凄まじい。自分勝手な渇きや、直截的な欲望で惹かれあっているだけにみえても、最終的に愛が美しいのはなんでだろう。

『ユリゴコロ』では最近第14回大藪春彦賞を受賞されています。ミステリとしては私はこれがいちばんおすすめです。山場を越えた!と思ってからも、これでもか、これでもかと何度も謎が解ける。痛快。
でも人が死ぬことだけで緩急がつけられているストーリーでは決してないと思います。「一般人」と「殺人犯」のあいだにどれだけの差があるか。「異常者の普通の思考」とは何か。世の中はほんとうに「善」と「悪」でキッパリ片付けられるのか。考えちゃいます。

しま猫のイラストが表紙になっている『猫鳴り』。一番短くて読みやすいかもしれません。まほかる入門としてもおすすめ。『九月が~』『彼女が~』では人間についての「これでもか描写」がすごい。ヤバイ。ということでしたが、今回は、「目に見えないもの」「言葉にないもの」を表現されたという感じ。ギャフン。そして、それは猫のなかにあるのだ。目に見えないいちばんだいじなもの、それは猫の中に。

『痺れる』はこの6作品のなかで唯一の短編集。帯には「苦しい、切ない、逃れられない 泣きたくなるような悪夢」「壊れていく男と女の9つの欲望」「暗い水底に引きずり込まれていくような9つの哀しみと絶望」という、なんとも絶望的なキャッチコピーが踊っています。いま、帯見ながらタイピングしてて笑っちゃった。どこまで暗いねん!
でもこの暗い作品たちがどうしても好きなんだよね・・・。哀しみとは、愛の異名。どの哀しみの背景にも、愛が歪んでいった歴史があるから、哀しみは深い。
深い!人間臭い!重い!でももっと読みたい!クセになる悪夢。そんな感じ。


沼田さんの作品に共通して感じたもののひとつは、「世界の曖昧さ」。私たちの見ている世界なんて、現象に名前をつけて整理しただけのあやふやなものに過ぎず、普通も異常も紙一重であること。そして、固定観念を取り除くと、もっとほかの美しいもの、繊細なもの、大事なものに、まだまだたくさん名前をつけられること。言葉ってすごいなァ~


つぎはどんな作品、作家さんに出会えるかしら。一度でいいから本屋さんに泊まってみたい私です。床にお布団をひいて。それか、小説だけを持って、片道一週間ぐらいかかる場所へ旅をするのもいいなあ~。



再見♪