ある日、赤磐〈あかいわ〉市前内池1号墳(6世紀初頭)の出土品を整理している調査員から、壺〈つぼ〉を描いた埴輪が見つかったと知らされました。いぶかしく思いながら作業室をのぞいてみると、それは石見〈いわみ〉型と呼ばれる盾形埴輪の一部で、確かに円の一部が四角く飛び出したような図形が刻まれています。私には、これとよく似た埴輪に心当たりがありました。

 奈良県纏向〈まきむく〉遺跡の報告書に掲載されていた石見型の盾形埴輪(5世紀後半)で、やはり盾の表に同じような図形を3列2段にわたって刻んでいます。報告者の石野博信〈いしのひろのぶ〉さんは、奈良県日葉酢媛陵〈ひばすひめりょう〉古墳(4世紀末)や静岡県三池平〈みいけだいら〉古墳(5世紀初頭)から出土しているホタテ貝形石製品との関連を指摘していますが、香川県岩崎山1号墳(4世紀末)ではホタテ貝とよく似た二枚貝そのものが見つかっています。

 スイジ貝という巻貝を模した銅製品が盾に取りつけられていたことはよく知られていますが、どうやらホタテ貝のような二枚貝も盾を飾り立てるのに使用されていたようです。海に棲む貝には外界から「寄り来るもの」を退けるような呪力があると信じられていたのでしょうか。

奈良県纏向遺跡の盾形埴輪(奈良県教育委員会1976「纏向」から)

 

香川県岩崎山1号墳の有孔帆立貝製品(東京国立博物館)