銅山開発と弁柄〈べんがら〉製造で栄えた成羽町吹屋〈ふきや〉は、昨年、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されてから30年を迎え、記念行事が賑やかに催されました。この吹屋の町で、200年余にわたり弁柄を商ってきたのが片山家こと胡屋〈えびすや〉です。片山家の当主は代々浅治郎を名乗り、弁柄工場や緑礬〈ろうは〉鉱山を経営する傍ら、坂本村の庄屋や吹屋町長を務めました。またその一族は、北片山、中片山、角片山に分かれて弁柄業のほか金融業や薬種業に携わり、吹屋の有力商人として活躍しました。

 この片山家の住まいは、吹屋往来をのぼりつめた中町地区の西端にあります。通りに面した主屋〈おもや〉は、弁柄格子や海鼠壁〈なまこかべ〉、虫籠窓〈むしこまど〉といった伝統的な意匠に加えて、両開きの大戸や袖壁〈そでかべ〉などに近代的な装いが見て取れます。塩田瓦で葺かれた屋根は、袖蔵に向かって階段のように棟の高さを変えていますが、これは江戸時代後期から明治時代後期にかけて家業の隆盛とともに増築を繰り返したことによるものです。内部は、通りに面した表を営業の場にあて、その奥は土間に大きな竈〈かまど〉を築くなどして生活の場に用いられました。また庭に面して立つ座敷は、石見(島根県西部)から招いた大工に銘木をふんだんに用いて建てさせた豪奢なつくりで、主に接客の場として使用されました。

 主屋の裏には、工場から運び込んだ弁柄を調合・箱詰めして出荷した作業場や、米や什器〈じゅうき〉などを納めた土蔵が立ち並んでいます。座敷からの眺めを意識して2階の壁には杉皮を張り、海鼠壁にも建物ごとに異なる意匠を用いるなど、いずれも凝ったつくりとなっています。こうした建物の内部には、当主が集めた書画や書籍などのほか、弁柄商いにかかわる記録や製造用具などが数多く残されており、吹屋弁柄の歴史を物語る貴重な資料となっています。

 このように片山家住宅は、重要伝統的建造物群保存地区を代表する建物であり、弁柄豪商のたたずまいを今に伝える貴重な建物として、平成18年12月、国の重要文化財に指定されました。現在は、所有者から寄贈を受けて保存修理を実施しており、間もなく装いを一新したその姿を皆さんにご覧いただけるものと思います。

(高梁市2008「広報たかはし」42号)

 

吹屋往来から見た主屋の外観

 

接客に使用された主屋の座敷

 

台所として使われた主屋の奥土間

 

主屋の裏に立つ土蔵や作業場