結局、そのまま家に帰って

完成したばかりの我が家の風呂に入った

まぁ、悪くはなかった


おいちゃんとは二度と会う事はなかった

たったそれだけの交流だった


だけど

今になって思う

どうしておいちゃんは

話し相手に僕を選んだのだろうか、と


多分、おいちゃんは

人生の終わりに

誰かに自分が歩んだ軌跡を

残したかったのではないだろうか


学校にも行ってないおいちゃんは

きっと

読み書きがあまり出来なかったはずだ


残すとすれば

語って聞かせるしかなかった


大人ではダメだ

目を輝かせて聞いてくれる

子供でなければ


おいちゃん自身

そんな魂胆はなかっただろう

不意に現れて

背中の彫物をジッと見つめる

小生意気な小僧と、なんとなく

話しをしたくなっただけだと思う


僕だってそうだ

こんなところに

記憶を残そうとしている


人が読もうが読むまいが

そんな事はどうでもいい

残しておければ

それだけでいい



あの高齢のお爺さんが

その後そんなに長生きしたとは

思えない

とっくの昔に鬼籍に入ったはずだ


でももし、

もう一度話が出来るなら

と思う


なぁ おいちゃんよ

家族の為に黙って働く

僕の父を

アンタは「男の中の男」と言った

アンタの目から見て

僕はどうだったろうか?



なぁ おいちゃんよ

野球のポジションの事で

愚痴を言った僕に

「男が理屈を言うたらいかん」

と言ったね

あれはこたえた

僕は黙るしかなかったよ

あれ以来

やるべきこと

やらなければいけないことは

黙ってやってきたつもりだ

ちゃんとやれてきたと思うか?



なぁ おいちゃんよ

生涯家族を持たなかったクセに

「家族を持ったらの、

    ちゃんと守っちゃらな、の」

偉そうに言ったね

こんなふうになってしまったけど

僕は家族を守った

って言えると思うか?


おいちゃんは

多分、フンッと鼻を鳴らすはずだ


そして


なんと言ってくれるのかは


どうしても想像出来ない