一時期、一緒に仕事をしていた
A君から
不意の電話があった
移籍すると言う
よくよく話しを聞けば
どうやら栄転と言っても良さそうだ
条件もいい
頑張っていたからな
と思う
懐かしさもあって
僕としては珍しく長電話をしてしまった
元々は別の人の部下だったが
ある出来事があって
僕の下に着きたいと
直談判したA君
悪いけど、面倒見てやってくれるか
と言われた時
正直
面倒くさいが半分
ウェルカムが半分だった
若い人が来てくれた事自体は
嬉しかった
何故面倒だと思ったか
それはこれまでがこれまでだったから
ろくなのをよこさない
出所したてのエンコを飛ばしてる奴
タイだかフィリピンだかで
蘭の品種改良の事で訴えられ
日本に逃げ帰って来た奴、等々
枚挙にいとまがない
酒の席でどちらさんかに頼まれて
すぐにいい顔をしてしまうのだ
それだけならまだ良い
すぐ僕に御鉢が回ってくる
任される以上
文句を言った事はないが
またか、他にも親方はいるだろ
と思ってしまう
預かった以上
僕は基本の基本から教え直した
大事な事は何度でも教えた
A君が
僕のところに来た理由に
それもひとつあったようだ
以前、A君はその時の親方から
何か怒られている事があった
その親方が言うには
大事な事だから一回しか言わねえぞ
だった
それでちゃんと覚えろと言う事らしい
聞いていた僕は
呆れて口を挟んだ
バカかお前は と
大事なことやったら
完全に身に付くまで何べんでも
教えちゃれや
そんな事言うたら
萎縮してなんも
聞かれんごとなるやろうが
思わず九州弁になってしまった
少し落ち着いて
もし親方があんな事言ったらさ
教えてやるから
いつでも聞きに来なよ
とA君に言って
あとは背を向けた
その後A君は
僕の下でやりたいと言い出したらしい
A君は活き活きと働いてくれた
仕事を
やらされた、と思うか
やらせて貰えた、と思うか
その差は大きい
A君はすぐに頼りになる存在になった
そんなふうにして
A君も現場を回せる親方になり
この度、請われての移籍という
運びになったようだ
ひとしきりの思い出話が
一段落したところで
Kさん、BBQの時の事
覚えてますか?
と言う
ある夏
職場のBBQが開催された
メンドクサ、などと思いつつも
参加したらしたで
それなりに楽しい
A君は
奥さんとお子さんを連れて来ていた
したたか飲んで食べていた僕は
いい気分でA君と話していたが
ふと、
少し離れたところの
奥さんとお子さんを
ジッと見つめて
言ったらしい
A君見てみ
A君は今、男の人生の中で
一番幸せな時間を過ごしてるんだぞ?
大事にしてやんなよ?
う〜ん…
言ったような気もする
しかし
教訓めいた意味はない
小さな子供を育てる若い夫婦が
少し羨ましかっただけだと思う
一瞬、過去を振り返っただけだ
しかし
僕の事情を知るA君には
随分重く刺さってしまったようだった
そんな事言った?
言いましたよお!
ずっと忘れないようにしてたんですから
僕はなんとなく照れ隠しに
とぼけてみせた
あの小さな坊やも
もう中学生との事
なんで人の子はすぐ大きくなるの?
まぁなんにせよ
家族を大切にしてくれていたのなら
良かった
当たり前、普通
それが一番だ
わざわざ電話をくれた事に
礼を言い
これからがまた大変だぞ?
と
少し脅して電話を切った
とてもいい気分だった