200円という、お手頃な価格で、本格的な天ぷらうどんが食べられるらしい。
そこに何十年も通う、独り身の男性は、奥さんのようなものと表現していた。
雪深い土地で、温かなうどんは、多くの人の心、身体の両方を温めてきたのだろう。
ある起業家の男性は、起業当初、仕事がうまくまわらず、よくここに食べにきたという。
一人になって、考える時間が必要だったようだ。
自動販売機は、そのそばで、灯りをともし、建っていた。
無言で、温めてくれた。
誰かを励まそうとして、逆に追いつめてしまうことがある。
ただ見守ることがいい時もある。
自分がどうしたいのか、どうすればいいのか、答えはいつも自分のなかにある。
簡単にはいかないかもしれないが、それを自分自身で見つける。
だれかに言われたから、動いてみた。
それで、あたることもあるだろう。
けれども、自分の心の奥底でイエスという答えがかえってきたものは、ぶれが少ないと感じる。
仕事でもなんでもそうだが、いつも順調に、うまくまわり続けることは難しい。
そんな時に、ぶれない軸があれば、自分を立て直すのも早いかもしれない。
この起業家の男性にとって、この自動販売機は、空腹を満たすだけのものではなく、心を支えてくれる存在だった。
この男性は、その後、仕事は順調なようだ。
けれど、月に一度は、この自動販売機を訪れ、うどんをすする。
その姿に、強い思いを感じる。
かつて、自動販売機の前で、現状と向き合い、考え、耐えた日の想いを、反芻しているのだろうか。
周囲の雑音を遮断して、自分と向き合って、対話する。
そんな孤独な時間も、必要だ。
この自動販売機は、老朽化が進み、修理部品も手に入らない状態だ。
うどんの汁が溢れるようになり、味がかなり薄いらしい。
けれども、多くの人が、存続を望み、大切にされているそうだ。