東京に、〈ダイアログ•イン•ザ•ダーク〉という、暗闇体験ができるエンターテイメント施設があることを知った。
視覚障害を持つスタッフにアテンド(付き添って案内)され、杖をつき、真っ暗闇のなかを進んで行く。
木や水に触れたり、お茶をいれてもらったり、日常行為を体験する。
視覚情報が遮断された暗闇は、とてもおそろしい。
危険回避のために、視覚以外の感覚器官が、暗闇空間に対し、全開になる。
身体中にアンテナが立つ。
乾燥した木の葉の感触。
水の流れる音。
温度や湿度、風向きの微かな変化。
始めて体験することのように、触れ、聴き、感じる。
超集中状態にあるため、そこでの体験は強烈なものに感じられる。
日々の生活のなかで、鈍くなっていた感覚が蘇ってくる。
私達はしばしば、その場にいながら、心は過去や悩みのなかにいたり、思い描いた未来へ行っていることがある。
心がその場にないために、充分に感じることができないのだ。
それが続くうちに、今ここを生きている、という感覚まで希薄になったりもする。
〈ダイアログ•イン•ザ•ダーク〉は、この場所、この瞬間を全身で感じることができる空間といえる。
番組では、この施設でアテンドをしている
ソプラノ歌手の川端みきさん、通称、みきティが紹介された。
彼女は、視覚障害を持つ歌手として、悩みを抱えていた。
目が見えないのに歌えるのがすごい、と言われてしまう。
私の歌が負けている、伝わりきれていない
、と感じていたそうだ。
しかし、暗闇のコンサートをするなかで、思い込みが消えたという。
暗闇は、視覚障害という部分にフォーカスされない、観客も自分自身も、先入観を持ち込むことがない空間だ。
観客は、心で音を聴く。
肌で音の振動を感じとる。
みきティも、心の目でみる。
観客の心の振動を感じとる。
思い込みを取りはらい、現れてくるものが真実だ。
ミキティは、視覚障害者として特別視されていると思い込んでいたのは、自分自身だったことに気づいたという。
みきティは、どんな風に感じてもらっても、自分は自分なのだと思えるようになった、と言う。
私は20代の頃、スキューバダイビングをしていた。
言葉を使えない、水の中の世界だった。
仲間と目と目を合わせて、身振り手振りでコミュニケーションをはかる。
もどかしさや誤解もあるが、伝わった瞬間は素晴らしかった。
私にとっては、仲間としっかりと繋がっている、という確信を持てる空間だったと思う。
言葉がないからこそできる、深いコミュニケーションがあった。
言葉を超えた思いも、視覚を超えた美しさも、どちらも、心の目を開かなければ、みえてこない。
暗闇の包容力は、すべて深い黒に染めて、相手との身体的な境界線をあいまいにする。
私はここにいる、そして、あなたもここにいる。
お互いが、繋がり合っていることを強烈に感じさせてくれるだろう。