天元台スキー場にいる。
今年の東北は、積雪が少なかった。
ここ山形は、去年のように、家々の周りに、塀のようにそびえ立つ雪はなく、軒から下がるつららが目についた。
町中を抜け、山を登るにつれ、雪に閉ざされた真っ白な世界が広がる。
常緑の樹々から、ときおり、粉雪がサラサラとしずかに流れ落ちる。
砂時計のようだと思った。
この静止した世界に重力があり、そして、時間が確かに流れていることを思い出させる。
ロープウェイの駐車場につくと警備の人に声をかけられた。
″今日のスキー場のコンディション、すごくいいよ。奥さん、日焼け止め必要だよ。〟
私は相変わらず、去年のように答えた。
″いえ、私は滑らないんです。
いえ、滑れないんです。〟
あー。
もったいない。
去年来たときには、スキーヤーの爽やかな笑顔とシャープな滑りに、あんなにも心が動いたのに、今年も私は、夫と子供達を見送った。
ロッジの窓辺に積もる雪を手にすくうと、泡のよう。
この厳しい環境に降る雪が、優しい感触であることに、天からの愛を思う。
パウダースノーは私の体温に溶けて、透明な水へと変わった。
雪は地下へ川へ、また天へと還る。
姿も役目もより透明なものへと移り変わっていくのだ。
夜が更け、激しい風が吹き荒れた。
風が唸り、自然の厳しさを見せつけられる。
暗い大海原の嵐のよう。
穏やかな昼間とまったく違う顔だ。
眩しいほど照り返す白雪も、行き先を遮る暗い雪も、あるがままの命の姿だ。
すべて、これでいいのだ。
暖かい部屋では、子供達は疲れ、布団をはいで、寝ている。
次男は突然、
〝足がぁー。〟
と、叫んだ。
続いて、長男も起き上がって言った。
″これ全部持っていくの。ギリシャに。〟
そして、パタンと倒れて眠った。
私はクスクス笑い、目を閉じた。
明日もきっと、いい天気になるだろう。
