今回の茶道のお稽古の掛軸は、「一期一会」だった。
初回のお稽古の時に、掛けられていたのも、この言葉だった。
改めて向きあう。
緩み始めた心を、見透かされているような気がした。
視線を上に移すと、蝉籠花入(せみかごはないれ)にムクゲの花が一輪入っていた。
真っ白な花だ。
ムクゲは夏の花。
朝に咲き、夕に散る、一日花。
白には純粋、潔白という穢れないイメージがある。
ふと、『源氏物語』の「空蝉」が思い浮かんだ。
忍びやってきた光源氏の求愛に応えることなく、薄絹を残して消えた女性だ。
かすかなぬくもりが残る衣を、光源氏は持ち帰り、空蝉の歌を詠んだ。
逢瀬の時を過ごすよりも、この世のものならぬ、忘れがたい女性として源氏の君の心に刻み込まれただろう。
今回のお茶菓子は、朝顔の上生菓子だった。
赤紫の花色に、席が華やぐ。
ムクゲ、蝉、朝顔。
万物はとどまることなく変化、変容し続ける。
今この時、この場所が一期一会。
この瞬間にとどまる静寂の心。
私は心を込めてお茶を点てた。
しんと静まる中で、お茶を吸い切る音が聞こえてきた。
それはとても軽やかで、美しい音だった。