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ギフト〜なな色の羽

私の中から産まれたがった言葉やお話を書いています

先日、歌舞伎界の女方の最高峰、五代目、坂東玉三郎さんがテレビ出演されていた。


華やかに光る黒のスーツで、井上陽水さんの名曲[少年時代]をデュエットで唄う姿に驚いた。


玉三郎さんのレアな映像に、わたしは食器洗いをやめて、あわててテレビの前に正座した。


前のめりで見ているわたしの姿に夫は引いていた。


玉三郎さんの歌声は心地よく、お姿は本当に若々しい。


わたしは二十代の頃に友人に誘われ、歌舞伎を何度か見に行った。


付き添いでいった程度ではあるが、2つの舞台だけは鮮明に覚えている。


1つは[連獅子]


紅白の獅子がダイナミックに舞う、有名な演目である。


そしてもう一つは玉三郎さんの舞踊だ。


華やかな踊りではなく、ずっと同じ場所に立ち尽くし、ほんの少しずつしか動かないという独特なスタイルのものだった。


その精妙な踊りは、かなりの時間続いた。


女性よりも女性らしいと言われる玉三郎さんは、一見、美しい機械じかけのお人形のようにも見えた。


けれど、その指先の1本1本にも、精妙なエネルギーが通っていて、舞台上には確かな肉体を持った女性が存在していた。


極めて少ない動きの中に、圧倒的なエネルギーと美とが表現されていた。


何かとてつもないものを見たような思いになったのを覚えている。


わたしはあの時のように、テレビの中の玉三郎さんの目や頬のほんの少しの動きを追って、ときめいていた。


芸を極め、心身を鍛え抜かれて、今はもうなにか違う境地にいらっしゃるようだと感じた。


男性と女性、現実と空想といった二極の間を蝶々のように新風に乗り、軽やかに行ったり来たり。


プロの歌手が集う舞台で、歌唱の評価などとは無縁に、ただ自然体で楽しまれているように見えた。