(月刊『家庭科教育』19855月号より)

私が『消費者の経済学』(A5670頁)を翻訳したのは,今から20年以上も前のことである。原書は,留学先のアイオワ州立大学家政学部で使用した一教科書である。

本書を校正していた社員が「アメリカには悪い人ばかりいるみたいですね。これでは,日本の商売人に悪い方法を教える本ではないですか」と言われたのを,今でも覚えている。当時の日本では考えられもしないような欺瞞的販売方法が具体的に数多く書かれていたからである。当時は,本書に書かれていたアメリカ人のあくどい販売方法に驚いたものであったが,その後これらのことはすべて日本で現実のものとなった。

新聞・テレビなどで,消費者の被害例が繰り返し報道されているが,それでもなお同じような被害が続いて起こっている。

例えば,街頭で,家庭や職場でアンケートに答えている間に,いつの間にか高い物を買わされる羽目になったという話をよく聞く。第三者から見れば,そんなばかなことをと思われるようなことであるが,販売者のよく訓練された巧みな話術によって,被害を受けることになる。特に,大都市の繁華街を控えた駅前で,アンケートに答えたために,額はそれほど多くはないが金を巻き上げられる田舎者の高校生や大学生が多いようである。

販売者は,違法すれすれの方法で,少しでも利益をあげようと常に努力している。我々消費者は,これに対抗する努力をしなければならないが,現実に毎日起きている消費者被害を少なくするためには,具体的消費者被害例を数多く,繰り返し繰り返し消費者(子どもも大人も)に示して注意を喚起することが,消費者教育関係者にとって,今必要なことであると思う。

(追記 2012422日)

これを書いたきっかけは,高校生だった息子が,埼玉県浦和市にある高校から,コンタクトレンズを買いに東京の新宿まで行き,駅前でアンケートに答え,持ち金を全部(大金ではないが)巻き上げられたことによる。電車賃のなくなった息子は私の会社まで1時間もかけてやってきた。お金を取られたが,代わりに映画を何回も見られる券をもらってきた。そこにある電話番号にかけてみると,とても行けないような遠い映画館で結局は1回も使うことはなかった。相手は犯罪にならないような工夫はしていたのである。

 その後,息子は同じ所でもう一度引っかかってやろうとしたが,声をかけてもらえなかったそうである。今でもあちこちの駅前で,アンケートを取っているのを見かける。被害がなければいいのだが。