short童話『月と太陽』 | むすび

むすび

天巫泰之


            
「おまえは楽でいいよな。おれなんか一日じゅう、たくさん光を世界中に与えて続けて、いつもくたくたなんだ」 

太陽は月にむかってそう話しかけていました。 

月は微笑みをたやさずに、ただうなずいているだけです。

「はい、みんな太陽さんのおかげです。わたしは太陽さんの光をもらって、夜のくらやみを、ほんの少しだけ明るくしているだけですものね」

「わかっているならそれでいいんだ。おれがいなかったら、地球では野菜もできないし、すべての命がそだたないんだからな」 

太陽はまっ赤なほおをさらにふくらませて大笑いしました。 

太陽は、ときどき火をふきあげては、まっ暗な宇宙を明るくさせています。

「だけどな、ときどき思うんだ。なんでおまえがこの宇宙にあるんだい? なんの役にもたっていないのに。昼間、俺がさまざまな仕事をしているのに、夜はおまえがのんびりとたいした仕事もせずに、夜明けまでただぼんやりとしているだけでは不公平じゃないか?」

「ええ、太陽さんのいわれることはごもっともです。本当にすみません」

「だいいち、おまえはミスばかりする。基本がなっていない。反省なら誰でもできる。いいかげん、ミスをしないようにどうすればいいのか考えろよ。このあいだも、子供が大切な家の鍵をおとしてしまったことがあったな。その子供は夜もねないで一生懸命鍵をさがしていた。それなのにおまえはずっと眠ったままで、まっ暗なままにしておいただろ。まったくだいじなときになにも役にたちゃしない」 

月はさすがにしょぼんとしてしまいました。
(私だって好きで月になったわけじゃない。私だって眠いのをがまんして、夜のくらやみを照らしているんだ。ときにはいねむりをしてしまうことだってあるさ) 

月は心のなかでそう思い、涙をこらえていたのです。そして、しだいにその姿まで消してしまいました。彗星が太陽のいじわるに腹をたてて、月と太陽のあいだを彗星たちがさえぎってしまったのです。

「あれれ、月のやつがみえなくなってしまった。だけど、まあ、いいか。あいつがいなくたって地球にはなんの影響もないさ」 

太陽はそううそぶき、ふんぞりかえっていました。 

そしてそれから月がみえなくなって、数ヵ月がたっていました。あいかわらず彗星たちが入れ替わり立ち代わり太陽とのあいだをさえぎっていたのです。 

地球では、いろいろな変化が起きていました。月は地球に大きな影響をあたえているのです。 

太陽はそれをみて、

「いいことと、悪いことが半分づつか。だけど、事故や犯罪が少なくなるなら月はやっぱりいないほうがいいんだろうな。人間は朝起きて、夜は眠るのが一番だ。なまじ月などあったから、徹夜だの、夜勤だの、あげくの果てには二十四時間の仕事などができるんだ」 と、大威張りに言いました。 

ただ、月が姿を消してから、人々の表情がのっぺらぼうのようになっていることに太陽は気づきました。

「いったいどうしたんだろう。人間たちがどうもおかしいな」 

太陽は通りがかりの、けし粒みたいな隕石にそう声をかけました。

「太陽さん、それは、月がかくれてしまったからですよ。太陽さんは陽気さを、月さんはさまざまな感情を人にあたえているんです」 

隕石は物知り顔で答えてそのまま飛んでいきました。 

太陽は彗星に話しかけました。

「おいおい、彗星くんよ。ちょっとどいてくれないか。ためしに月の光で地球を照らしてみたいんだ」

「これはこれは太陽さん。やっとあんただけではだめだということがわかったのですね」

「いやいやかんちがいするなよ。月なんかなんの役にもたちゃしない」 

太陽の言葉に腹をたてた彗星は、月のまわりをぐるぐるまわって、月をどこかに飛ばしてしまいました。するとひきあう力がおかしくなって、ほかの星たちともけんかばかりするようになったのです。

ひとりぼっちになった太陽はどうにも元気がありません。火炎のふきかたにもいきおいがないのです。 

太陽はようやく月にあやまって、もどってもらう気持ちになりました。そして彗星にその思いをたくしたのです。 

太陽の伝言を聞いた月は、彗星と連れそって、ゆっくりと、もとの場所へとむかいはじめました。

                    (fin) 


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