韓国で「イルテノーレ」を観ました。

日時:2024/04/26 1930公演
劇場:ブルースクエア


予想を遥かに超えた感動作でした。日本統治時代の韓国を舞台に韓国初のテノール歌手を題材した物語で、私は反日を描いた偏った話と誤解していたようで、実際の舞台は歌や芸術を愛した人々を劇的に描いたバックステージ物。特にミュージカルが好きな人には共感しまくりの物語だと思いました。見事な作品を創ったスタッフや出演者の方々へ心からの拍手を送りました。


※ここから激しくネタばれします。



幕開けは老夫婦が学生時代を懐かしむ場面から。主人公の青年はふとした事で歌の才能を認められ、医者になれという親の反対を押し切りオペラの世界に入る。愛する彼女も韓国初のオペラの立ち上げに協力してくれるが、彼女には抗日運動で亡くした両親の仇をとるため初日に来場する日本軍人を殺害する計画があり、開幕直前にそれを知った主人公は…。


「笑う男」や「ジャックザリッパー」など韓国産ミュージカルは大作ながら闇のある作品が多い印象でしたが、今回はミュージカルの楽しさが全面に溢れた快活な作風なのが良かったです。内気でダミ声の青年が本格的に歌えるようになり絶賛される場面は「サウンドオブミュージック」のドレミの歌の場面に匹敵する高揚感があり、授業中に歌が頭から離れず人生を決める戯画的な場面も喜びがストレートに伝わって感動しました。


私が日本人なので抗日描写がどうなるかスリリングな観劇になりましたが、統治者側の残忍な場面はなく、時々変な和服を着た女性や下手な日本語が飛び交う程度で、作品の主題は舞台を愛した人々の物語だったのが嬉しい誤算でした。韓国産「グレートギャツビー」がNYで開幕、その後継を狙った同じプロデューサーの作品との事で、楽曲も美術も脚本も演出も世界を視野に入れた王道ぶりで、潤沢な資本力も羨ましい限りでした。

大好きだったのは二幕のオペラの試演会場面。オペラ作りに携わった人々が舞台への思いを歌う姿が美しい照明と楽曲に彩られて余りの神々しさに泣けました。最終的にヒロインの日本人復讐計画は彼女が自分の命と引き換えに実行、つまり、冒頭の仲睦まじく見えた老夫婦の女性は実は既に死んでいた事が最後に明かされ、それを知って私は再び号泣なのでした。

残念だったのはエピローグ。先に旅立った彼女や仲間に迎えられて主人公が絶唱しながら人生の幕を下ろすのですが、彼だけがヨボヨボの爺さんでここは宝塚好きの私としてはカッコ良く若返った姿にして欲しかったです。明るく楽しくドラマチックで見応え聞き応えに溢れた作品で渡韓した甲斐がありました。


主役のホン・グァンホさんは物凄い声量で、前半の眼鏡姿も愛らしく何より大迫力の歌声を轟かせた歌唱場面が圧巻でした。最後の暗殺計画を知った彼が彼女の身代わりに爆弾を抱えて自死を覚悟で舞台に上がる行動は宝塚もびっくりの切ない展開。悲痛な恋愛物としても涙が止まらなかったのも彼の共感性の高い演技と歌唱力と類い稀な愛嬌の力だと感嘆しました。

ヒロイン役のキム・ジヒョンさんは毅然として喉の強さも魅力的でした。彼女はオペラ作りの演出家として協力するのですが、似た設定が宝塚「アルカンシェル」でありましたが、巧く運ぶ宝塚版と違ってこちらは失敗の連続なのがリアルでした。

二人と同じ大学生で、抗日運動家でもある男性役のシン・ソンミンさんの歌唱力も素晴らしく、アンサンブルの一人一人に至るまで歌ウマ揃いで、改めて韓国俳優陣の身体能力の高さに圧倒された三時間でした。最初に大人数の群舞があり絶妙な振付ながらメモを受け渡す描写が意味不明だったのですが、言論統制された表現だと後で分かり、戦争の悲哀も感じました。

今回、三泊四日で「マリーアントワネット」「イルテノール」「グレートコメット」「ディアエバンハンセン」+キムジェファンさんのコンサートへ行ったのですが、帰国しても尚、この作品の主題曲のアリアが脳内へピロテ中です。それは

楽曲の力強さもありますが、人生は一度きり。周囲と仲良くして、推し活でも観劇でも旅行でも何でも自分が楽しいと思う事をやれば大変な事も乗り切れて、笑顔で毎日を過ごせるというのが心に響いたからだと思っています。

で、観劇後に日本でこの作品が翻訳上演される場合、一体どの若手俳優がこの主役の純真さと歌唱を演じられるだろうかと考えあぐねたのでした。鈴木壮麻さんならと思いましたが、まぁ、反日に触れてるので、公演はあり得ないでしょうね。

プロデューサー:シン・チュンス/脚本:パク・チョンヒュ/作曲:ウィル・アロンソン/演出:キム・ドンヨン/振付:コナー・ギャラガー/美術:オ・ピリョン


↑授業中にオペラの事が頭から離れない場面。コミカルなのに泣けました。幻想の父親も最後には合唱に参加。主役はパクウンテさん。彼はこの作品の前後に「ベンハー」と「フランケンシュタイン」で鍛えた裸体を見せる都合か😀ぽっちゃりのホン氏(役作り?)と違い、体型美?も隠しきれずですね。

↑思わず号泣してしまった試演会の場面。大道具係、歌の教師、ピアノ伴奏家、衣装係、役者などが舞台愛を謳う場面。こちらの主役はソ・ギョンスさん、シュっとしてますね。映像では照明の美しさが伝わらず~また、訪韓したいです😀。











↑翌日にキャストボードだけ撮影しました