花組「アルカンシェル」に触発されて、過去のナチスが登場する宝塚作品を再見しました。簡単な感想と作品の比較です。2つに分けるつもりでしたが一つにしたので超長文です🙇‍♂️。

リラの壁の囚人たち(1988年月組)
作演出:小原先生、主演:涼風真世さん・朝凪鈴さん
舞台はナチス占領下のパリ。涼風さんはパリに潜む英国将校。ナチスは星原さん。抑圧されたパリ市民が「ラマルセイユ」を歌い、ドイツ軍に抵抗する場面が感動的。激昂した星原さんが朝凪さんを射殺し彼女の婚約者の久世さんが星原さんを射殺。

悲劇で終幕。星原さんが恐ろしいほどの迫力で物語も演出も緊張感たっぷりで、続編も作られましたが本作が大好きでした。



ロマノフの宝石(1989年花組)
作演出:正塚先生、主演:大浦みずきさん、ひびき美都さん
舞台はナチスに占領された架空の都市。大浦さんは表向きはマジシャンで実は義賊。ひびきさんの弟役の瀬川さん演じるレジスタンスに協力してナチスに抵抗。敵対する朝香さんは本心と職責の板挟みに逡巡し、最後は軍人を辞めて民衆側に立つ。

今回の永久輝さんの役柄はこの朝香さんを想起しました。架空の国にして史実の拘束から逃れたのが作演出の妙味ですね。


螺旋のオルフェ(1999年月組)
作演出:荻田先生、主演:真琴つばささん、檀れいさん
舞台はナチス占領前後のパリ。真琴さんは元ナチス将校で、パリのレジスタンスの檀さんと恋仲になり、ドイツを裏切る。彼女を亡くすが瓜二つの妹(檀さん二役)に出会い、夢と現実の狭間を彷徨う。戦争に引き裂かれた極限下の恋愛譚でした。

史実として敵対するドイツ人とパリ市民が結ばれる事があり、このモチーフを既に25年前に荻田先生が扱っておられました。


凱旋門(2000年雪組)
作:柴田先生、演出:謝先生、主演:轟悠さん、月影瞳さん
舞台はナチス占領下のパリ。轟さんはドイツから亡命した外科医。一緒に逃れたボーイフレンドに死なれた月影さんと出会う。轟さんら出演者の好演、柴田先生の名潤色で、ナチスから逃れる亡命者達の苦しさに私はぐいぐい引き込まれました。

再演版では、初演で終幕に香寿さんらがナチスに抵抗する戦闘場面があったのがカットされました💦~好きだったのに💦。



◼️追記
カサブランカ(2009年宙組)
脚本・演出:小池先生、主演:大空祐飛さん、野々すみ花さん
舞台はナチス占領下の仏領モロッコ。大空さんが経営する米国への亡命希望者が集まるナイトクラブに嘗ての恋人・野々さんが反ナチス運動家の夫・蘭寿さんと現れ、過去の思い出が甦る。最後は自分が犠牲となり、彼女のために身を呈して…。

萬さん、磯野さん、北翔さんら、演技派が揃い、ナチスの悠未さんの冷徹な巧演もあり、主題曲も良くて、再演して下さい。



Je Chante(2010年宙組)
作演出:原田先生、主演:凪七瑠海さん・花影アリスさん
舞台はナチス占領下のパリ。凪七さんと花影さんは映画撮影所で出会い、彼は歌手として、彼女はレビュー歌手として夢が叶うが、彼女はドイツ軍の春風さんに強引に奪われ、そして…。春風さんもナチスの偏狭な雰囲気を的確に描いて見事でした。

凪七さんはカサブランカ、本作、ベルリン・わが愛でナチスに追われる側、ナチス側の両方を演じた貴重な役者ですね。


ベルリン、わが愛(2017年星組)
作演出:原田先生、紅ゆずるさん、綺咲愛里さん
舞台はナチス占領下のベルリン。ナチスの文化統制、検閲で表現の自由が奪われた映画監督の紅さんと女優の綺咲さんを中心とした映画人達の物語。ナチス占領下で限界を感じた彼らはハリウッドでの飛躍を目指してアメリカへ亡命を図る。

ナチスが映画界を制圧していく様子を緊迫して見せた原田先生の演出、当時の星組の座組みも全てが大好きな作品でした。



Love and all that jazz (2021年月組)
作演出:谷先生、主演:風間柚乃さん、きよら羽龍さん
舞台はナチス占領下のドイツ。風間さんはドイツ人ピアニスト。ジャズを禁止された彼はナチスの礼華さんから逃げてきたユダヤ人のきよらさんを守る。礼華さんは風間さんとは音楽大学で共に学んだ友達ながらナチスに入党したという設定。

最後はカナダ経由アメリカへ亡命…強引な展開ながら、ジャズの様々な名曲、ワルキューレの騎行も利用された佳作でした。



アルカンシェル(2024年花組)
作演出:小池先生、主演:柚香光さん、星風まどかさん
舞台はナチス占領下のパリ。柚香さんと星風さんはフランス人ダンサーと歌手。永久輝さんは彼らを支援するドイツ軍人。

某作家がこの作品はナチスをカッコ良く描き過ぎ(意訳)と批判していますが、史実として、パリ入城を果たしたドイツ軍はヒットラーの命令で清潔な身なりで無精ひげひとつはやした者もおらず、全員が整然と秩序ある行動をとっていたそうです。

ドイツは自分達が占領したからそこフランスは安全だと世界中へ宣伝するための汚い戦略。

タカラジェンヌがナチスを演じると、どうしてもカッコ良くなるのですがナチスの戦略だと説明するような場面もあれば、この類いの批判も最小化されるのに…とも思いました。

小池先生と花組陣の名誉のために、遊び心でナチスをカッコ良く描いたのでなく、史実に基づいているのを当時の拾い画像で証明させて頂きます。裏の企み、搾取を隠して、ナチスのドイツ軍人はパリでは礼儀正しく紳士に振る舞っていたそうです。