二度目を見ました。ショーは素晴らしい。何度も見たいです。お芝居も私は好きですし、代役の方々も大好演。ところが客席で寝たという感想も多くて残念な限り。私は一人勝手に色々と深読みもして、立ち見なのに何度も涙が込み上げました。

物語は英国王室の危機を月城さんらが解決する話。ロマンス+事件の解決という、いつもの正塚作品。初見時は宗教に起因する内紛なので英国の話でありつつ、パレスチナのガサ地区の紛争も暗喩していると思いました。しかし再見して思い直しました。

実は暗喩しているのは今の宝塚。そして、この状況を危惧した正塚先生と月城さんが人として大切と思う事が静かに、そして力強く込められている気がして、尊い作品だと感動しました。

特に好きなのは主役二人が心を通わせる二度目の丘の場面。丘は悠久の昔から亡くなった方々を弔う場所であり、その方々を偲ぶ場所。喪失と再起の象徴。この場面は出会いや人を思いやる心の大切さを語る台詞、そして、装置も音楽も演者も全てが美しく、しっとりと心が洗われた思いがしました。

メアリースチュアートが怨みの連鎖は止めるよう語るのも、先人の遺品から声なき声を聴くのが大切というのも今の宝塚に必要な事。劇団幹部は劇場二階の宝塚の殿堂の品々から大切な何かを感じ取って欲しい。梨花さん演じる英国女王が締めるのも小林公平さんがご存命ならという正塚先生の思いとも感じました。

月城さんが舞台上でおおらかな優しさと笑顔を見せ続けるのも元雪組出身なので一禾さんの事も良く知り、前月組トップコンビの不仲(大千秋楽の二人は疲れもあったと思いますが最後はキレ気味でしたね)も見ていたからこその彼女なりの思いが込められているのではと一挙手一投足から目が離せずでした。

異様な金切り声を発する悪の集団。降霊術も偽物で意見が纏まらず組織として破綻しているのも今の劇団の内情を彷彿。世間を揺るがす問題の発端は実のところ一部の人間の一時的な言動に過ぎないという、その愚かさを彩さんと彩海さんに吹っ切れた演技をさせて表現。劇中の彼らのように贖罪を願う。

あと、これは妄想中の妄想ですが、正塚作品は過去から無名の人々が事件の解決に立ち上がる展開が多く、例えば「ロマノフの宝石」のナチスに対抗するリーダーは大浦さん演じた泥棒(正確には魔術師の夢物語)。自分に何の利益もないのに周りの人々を見捨てる事が出来なくなった事からの行動。

今回の月城さん演じる主人公も王室の人物でなく一般人。乗り掛かった船で解決に挑む姿は正塚作品の通りながら、宙組のパワハラ問題を外から懸命に批判し続けている我々の行動への先生からのエールにも思えて、今回の件が隠匿されず風化されないよう劇団への外圧や牽制に頑張ろうと思いました。

この時期に正塚先生と月城さんの作品が登場したのは天の配剤。終幕で、組子に囲まれて中央を歩む月城さんと海乃さん。全員の満面の笑顔が心地よく、この光景こそ、我々が宝塚に望む姿だと心からの拍手を送りました。


併演のショーが良すぎるためお芝居の感動が少々薄れるのも難点ですが、他にも記憶に焼き付けたい美点も多いので、もしも退屈で再見がツラいという人がおられたらチケットをお譲り頂ければ幸いです。



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