ネットでは塩反応の人が多いようですが、私は楽しくて感動しました。初日も遅れ、歌劇誌の座談会記事も初日に間に合わず、相関図発表も初日開演直前。小池作品常連の有村先生も太田先生も参画なし。私は立ち見の二列目の端。ネットでは古色蒼然とも言われていて不安満載の観劇でしたが、私は忖度なしで感動しました。特に舞台を守り抜こうとする登場人物達の生き様に感銘して何度か泣いてしまいました。

※ここから激しくネタばれします。


 物語の舞台は第二次世界大戦、ドイツ占領下のパリの劇場。亡命した上司の紫門さんと舞月さんに代わり、振付と演出を担う事になった主役ダンサーの柚香さんとスター歌手の星風さんは戦禍で苦しむ人々のためにショーを続けるべきと団員の一樹さん、綺城さん、帆純さん、星空さんらと稽古に励むものの、ドイツ軍の羽立さんや輝月さんらにジャズの禁止を言い渡される。しかし、万人に愛されるジャズこそ上演すべきと闇営業をドイツ軍の文化統制官の永久輝さんから提案されて…。

 先ず随所に織り込まれたダンスシーンに見惚れました。例えば、冒頭の羽根を贅沢に使った紳士淑女のレビューは装置は時代を反映させた小さいものながら、この数年のショーを軽々凌駕する美しさ。小池先生の(私には念願の)ショー作品としても楽しめましたし、花組陣のダンス技術やチームワークも見応えありました。気品ある音楽や衣装や装置も良かったし、何より劇場の灯を守ろうとする人々の思いに共感し台詞一つ一つが心に響きました。

 好きだったのは永久輝さんが演じた軍人。国境を超えて演劇を愛する明るく深い役で、エンタメこそ世界を繋ぐという星空さんとの二重唱も感動しました。小池作品で大好きな一幕ラストは闇営業の結末。全員総出の合唱をバックに悲痛な姿で銀橋を渡る柚香さん。見応えある作品で小池先生も文春砲を浴びて吹っ切れたのかなと思いました。

 二幕はレジスタンスの活躍や捕虜になった一樹さんの救出作戦など戦火が色濃くなったものの脚本が少し弱く感じましたが(パリ浸水計画の映写は二幕が良かったかも)、ミュージカルな演出に見応えがあり、私は最後まで楽しめました。特にジャズ解禁場面で、辛辣なドイツ軍の群舞にジャズを踊る面々が重なる狂騒的な流れに感嘆して涙が込み上げました。ただ、あれこれ感動して泣いていたのは私ぐらいで、ナチスの扱いや良くある感じの物語には賛否両論かなとも思いました。


 柚香さんは殆んど出ずっぱりで、あれだけ激しく歌い踊り続けても息一つ乱れない身体能力の高さに圧倒されました。妖艶でカッコ良くて美しい。生ピアノも生着替えもありました。星風さんも肩の力が抜けて、リラックスした感じが何とも魅力的。披露したオペラのアリアも100期首席の面目躍如の鋭敏さ。二人が引き離されても心は繋がっている感じなのもこの二人だからこそ成せる技。デュエットダンスの幸福感満載の二人の姿に観ているこちらも幸せになりました。

 永久輝さんは誠実な演技と手堅い歌唱力が舞台に安心感を与え、何より清潔感と清廉潔白な感じが好ましい。星空さんの舞台映えと共に次期への相応しさを感じました。聖乃さんの舞台回しの出番も多さは小池先生の信頼の証(ルキーニの予行演習か)。

 輝月さんの敵役も迫力ありましたし、綺城さんの裏切り者役は絶妙な匙加減、帆純さんの華やかな美貌に改めて退団が惜しい限りでした。一之瀬さんの稽古ピアノ青年も凛々しかったです。一樹さんの道化の熟練の芝居と深い歌に痺れました。大人数の場面が多いので下級生の出番も多いのも何よりでした。

 パレードの柚香さんの大羽根は7色でなく5色の虹。宝塚賛歌の三時間でもありました。柚香さんは最後まで笑顔満載。デュエットダンスの後に星風さんさんが先にハケて、柚香さんが一人残り、舞台の床を手で触る振付があるのですが、普通はキリっとした表情になりそうなところ、ここでも満面の笑みでした。私も柚香さんへの感謝を込めて笑顔でお見送りしようと思いました。楽しんだ者勝ちの舞台。わからない人にはわからない舞台だと思います。再見が楽しみです。