全世界を席巻のインド映画「RRR」の世界初の舞台化。チケットが超激戦で、原因の一つの一方的な公演キャンセルですが、星組大劇場公演だけでも単純計算したところ、2527人/回×▲10回=25270人が被害。タカラジェンヌの過労対策による公演数減とは言え、前売後のキャンセルはひどい話。私も立ち見の二列目の端を譲って頂いたのですが本当に苦労しました。 

 「RRR」は英国領だった頃のインドが舞台。英国総監夫妻(輝咲さん、小桜さん)に拉致された女性(瑠璃さん)の救出に挑むビーム(礼さん)と、インド人ながら英国総監下で働く警官ラーマ(暁さん)が主人公。二人は火事場で出会い、少年(碧音さん)を助けた事で意気投合するが、互いの素性を知り、敵対する立場だと分かり、そして…。 


 三時間の映画を巧くダイジェストしていました。宝塚は見掛けが美しいので「RRR」かと言えば違うのですが、歌やダンスが満載で、舞台装置も大掛かり。インドの猥雑なギラギラの代わりに巨大な虎のギラギラな照明なども駆使したスタッフ総力戦の舞台は見応えがありました。脚を壊しそうなナートゥダンスも全員が笑顔で踊り、正月に相応しいハッピーエンドでした。 

 ただ、私は単なる舞台化でなく宝塚化された舞台を期待していたので少し物足らずでした。礼さんと暁さんのバティ物でしたが、4ヶ月の休演明けの礼さんの復活の祝賀感を盛り上げるためにも、例えばラストも礼さんと舞空さんの二人での幕切れにした脚色が見たかったです。配役も礼さんと暁さんは逆が良かったです。主役として面白いのは敵と真っ直ぐに闘う礼さんのビームより暁さんが演じたラーマでした。 

 ラーマが英国政府で働くのは将来の母国独立に備えて武器を調達するため。英国総監から逮捕を命じられた人間がビームだと知り「友情か使命か」と葛藤するのですが、この作品を貫くキャッチコピーも暁さんのラーマのものでした。「愛か」の恋愛要素も礼さんは無く(英国総監の姪役の舞空さんには婚約者=極美かんがいて礼さんと結ばれず)、暁には恋人(詩さん)もいました。それでも礼をラーマでなく、ビームにしたのなら、主役に相応しい脚色を見せて欲しかったです。 

 それでもビームを主役に屹立させた礼さんは流石でした。情感豊かな歌、難しいアクションや殺陣、足がつったり疲れたら負けというナートゥダンスの場面も最も高い技術を示して圧巻でした。その胸を借りた星組メンバーの熱演も見所で、色々大変だった1789やミーマイを成し遂げた各人の自信が伺えた熱量の高さが作品の都合良すぎなところも補っていたのが何よりでした。 


 ショーは芝居仕立て。本当は普通のショーが好みですが、倒錯的で、劇場に関する憧憬を想起させられて私は忽然と見惚れました。長くなったので詳述は避けますが、特にハッとさせられ、胸を衝かれたのが第7場「孤独」。 

 プロローグは礼さんが一人で現れ、その後、レビューの場面、バックステージ、サーカス小屋、役者やスタッフやファンの場面など、劇場を切り口に色々な光景が描かれたのですが、この場面で、礼さんが再び一人で現れ、舞空さん、暁さん、天華さん、極美さん、天飛さんがここまでの場面の代表的な衣装で出現。「ただ、ただ、愛おしい」と歌う礼さん。礼さんが自分の過去を追想する感じで、しっとりとした渾身の歌に涙を誘われました。次で退団…でなければ良いのですが。 

 暁さんは姿月さんが宙組トップに決まった時に未完ながらどこか納得させられた感じと似た器の大きな魅力がありました。本当にスターになりましたね。舞空さんはショーで黒スーツで踊った時に胸のすくようなダンスに単に綺麗や可愛いでなく「かっこいい」型のヒロイン路線を歩んでいるのを嬉しく感じました。極美さんは声が凰稀に似て来た印象。美しさと男役らしさが増して更に楽しみになりました(ただ、100期生なので、宙組100期生の事が頭をもたげて困りました)。チケットは無いのですが再見したいです。