待ちに待った韓国「レ・ミセラブル」。やはり、体格が良く、強靭な喉を持つ俳優が多い韓国で演じられたレミゼは凄い迫力で、何度も感動し、たっぷり号泣できて、大満足でした。

劇場のブルースクエアにはバリケードやABCカフェやジャベールの橋を模したフォトスポットが作られ、大行列の大盛況でした。私は開演一時間前まで「モンテクリスト」を観ていたので必死で移動しましたが、韓国の地下鉄は分かりやすくて助かりました。

開演5分前にこの日のバルジャン役のミンウヒョクさんの男前な声で観劇注意と指揮者の紹介があり(指揮は人気のキムムンジョンさんでした)「ミュージカル、レミゼラブル、さぁ開演です」の掛け声で重厚な序曲がスタート。私は冒頭のジャッジャーンの第一音で、これがレミゼだ❗と、涙が込み上げ、そこからほぼずっと号泣でした。

※ここから激しくネタばれします。


物語は動乱のフランス革命後のパリを舞台に、パン一つを盗んだ罪で19年投獄され、仮出獄後も不当な差別を受け、一夜の宿を提供してくれた司教の館から銀器を盗むものの、彼の慈悲で心を入れ変え、贖罪に生きる事を決めたジャンバルジャンの激動の半生を中心に様々な人々の生きざまを描いた人間ドラマ。

1987年の日本初演から37年、私も何度も見ている一人ですが、今回も観劇後に平和の有り難さや、家族や周囲への優しさや愛や助け合いの大切さが身に沁みて、改めて、この作品は恒久的に公演され続けられるべき、尊うしく、「特別」なミュージカルであるのを再認識しました。

この作品が奥深いと思うのは年を重ねても共感できる人物が次々現れる事で、私も若い頃は革命家アンジョルラスの正義感に心酔し、結婚し娘を授かってからはファンティーヌの母性愛に泣き、仕事人間だった頃は警部ジャベールの愚かさが他人事に思えず、今回はバルジャンの娘を思う境地に泣けて仕方なかったです。

それにしても…と、今更ながら感嘆するのは音楽の素晴らしさ。親しみ易く劇的な旋律を持つ楽曲が目白押しで、しかも同じ旋律が様々な人物に歌い継がれる妙味がミュージカルファンにはこの上なく楽しく、この作品と出会った頃からの様々な思い出も想起されて、何とも豊かで幸せな時間を過ごせました。

残念だったのは演出。日本でも2013年版から適用済の盆や奈落を使わない「回らないレミゼ」でした。一幕は幕開けが船内労働に変わり、バルジャンが少年から金を奪う場面が追加されるなど新演出が楽しめたものの、二幕になるとバリケードが回らないのが物足らず、オリジナル演出の迫力が恋しくなりました。

あと如何にもフレンチミュージカルだと思いました。物語が驚くほど速く走るのに突然舞台上で一人になった演者がたっぷり時間をかけて歌う形式が今ではお馴染みになったフレンチミュージカルと同じだと思いました。調べるとこの作品の原型はフランス初演でした(作詞作曲のお二人もフランス人ですし)。

ただ、このショー形式が日頃から群より個の主張が激しい韓ミュー界には相応しいと思えたのも事実で(日本版の個より群の魅力が勝った舞台も好きでした)、アンサンブルの一人一人に至るまで高度な歌唱力が求められる、この作品の要求に十二分に応えた韓国俳優陣の熱演が何より印象的でした。


出演者では、先ずはジャンバルジャンのミンウヒョクさんが素晴らしかったです。元野球選手で身長187センチを超える体躯が巨大な荷車を持ち上げる役柄に真実味を与え、何と言っても凄まじい声量と幅広い音域で朗々と歌い切った歌唱力が見事で、演技も頻繁に号泣しておられて耳福眼福の3時間でした。

ジャベールのキムウヒョンさんの凄絶な歌にも圧倒されっぱなしでした。歌というより完全に芝居で「星よ」は一つの物語を観る思いでしたし「自殺」はバルジャンに命を救われて発狂するのが恐ろしいほどの迫力で観ていて震えが止まらずでした。

ファンティーヌのチョジョンウンさんは先日発表の韓国ミュージカルアワードの助演女優賞にノミネートされておられる通り、命がけで娘を思う姿が劇的で、観客の心を掴んで離さない情感に満ちた歌の素晴らしさに涙で舞台が正視できずでした。


アンジョルラスのキムソンシクさんの長髪を靡かせ、高らかなテノールで歌い出す「民衆の歌」には正義に燃える若者の眩しさが溢れ、マリウスのキムギョンロクさんの独唱には胸をえぐられる思いがして、コゼットのイサンアさんの切々としたソプラノにも感動しました。テナルデイ夫妻のイムギホンさんとパクジュンミョンさんのゲスぶりも絶品でした。


そして、今回の訪韓を最終的に決意させて頂いたのはエポニーヌのルミーナさん(中村ルミーナさん)。日本とインドとのハーフだそうで、もう声の質がたまらなく切なくて、彼女が出てくるだけで私は泣いてしまいました。演技にもひたむきな思いが込められ「オンマイウォン」には傷付いた心が透けて見えて、マリウスの腕の中で息絶える絶唱には私も号泣してしまいました。某テレビ番組によると韓国語もとても綺麗だそうです。大ファンになりました。


一幕ラスト、二幕ラストの大合唱はあまりの感動で無意識に客席から(日本語で💦←迷惑)一緒に歌ってしまいました。キムムンジョンさんの指揮は聞かせ所のタメが超長くて(大好き💕)、2曲共に最後のロングトーンの長さが半端なかったので息切れして死にそうでしたが思いっきり歌えて?満足でした。


今年、日本でも再演されるそうで、楽しみです。



뮤지컬 레미제라블은 LES MISERABLES
민우혁、김우형、조정은
김성식、김경록、이상아

임기홍、박준면、루미나