A. L. Webber's Royal Albert Hall Celebration The Shows Must Go On

The Phantom of the Opera

このステージのネット配信を再見し、改めて「オペラ座の怪人」の作品力を実感、大好きだった四季版の記憶も甦ってきました。そして、初演時の保坂さんの事も思い出されました。

私が最初に保坂さんのクリスティーヌを見たのは1988年1月開幕の青山劇場での「35ステップス」でした。「オペラ座の怪人」のタイトル曲が歌われ、初見時は沢木さんと野村さんで、2回目の2月2日が沢木さんと保坂さんでした。この時の保坂さんの歌がとてもドラマチックで、感動がずっと忘れられませんでした。

そして、同年4月25日からプレビュー、4月29日初日の日生劇場での「オペラ座の怪人」が開幕。初見時のメインキャストが市村さん、野村さん、山口さん、2回目の5月15日が市村さん、保坂さん、山口さんでした。

やはり、野村さんのヒロイン然とした存在感は贅沢でしたが、保坂さんのクリスティーヌが新鮮で、ひたむきな演技、情感とふくらみのある歌に私は激しく心を揺さぶられ、より感動が深かったです。

当時の保坂さん視点の観劇メモが出てきました。この作品を盲目的に溺愛していた頃のものなので、過剰に激甘で、誤解も多いのですが、適当に戯言として読み飛ばして頂ければ幸いです。今から32年前、感慨深いです。


★ハンニバルの稽古
保坂さんは小顔で、首筋も四肢もすらっと長く、抜群のプロポーション。ダンス力を誇るダンサーならではの動きの美しさで、トゥで立つ姿にもリアリティーがあり、さすがでした。マダムジリーに注意された時の表情が可愛く、これほど踊れて、スタイルが良く、しかも、少女性を備えたクリスティーヌは世界的にも稀有と思う。
 
★Think of Me
慎重に歌い始めた野村さんと趣きが異なり、保坂さんは爽快に最初からトップギア。固唾を飲んで見守っていた我々の緊張も早々に興奮と幸福感に変わりました。声が良く通り、歌詞が明瞭で、感情の乗せ方がオペラでなく、ミュージカルなのがとても心地よかったです。途中で入るラウルのブラボーも納得。そして、クライマックスのカデンツァは保坂さんならではのビブラートが効果的に響き、ラストの歌い上げも鋭敏でした。
 
★The Phantom of the Opera
市村さんと保坂さんの緊迫した芝居歌にぐいぐい引き込まれました。舞台装置の美しさ、曲の素晴らしさ、出演者の歌唱力と演技力。全てにひれ伏すほど圧倒され、ミュージカルの魔術的な力に込み上げる涙を止められませんでした。最初の保坂さんの妖艶な低音にしびれ、市村さんの劇的な高音が突き刺さる。セリ上がる無数の蝋燭に幻惑され、舞台奥から小舟に乗った二人がカッコいい。二人の体型が揃って細身なのも良く似合う。声をかけるのが憚れるような二人だけの安住の地。報われない結末を知っているだけに切ない陰影にも襲われる。



★All Ask of you/reprise
もう本物の恋人同士でした。強い愛を感じました。山口さんのテノールが朗々と響き、保坂さんの可憐な歌声が重なる。山口さんのおおらかな気品がこの役とこの曲にぴったり。そして、保坂さんの情感を歌い分ける表現力の豊かさ。この曲の美点を引き出す保坂さんの魅力。そして、保坂さんの魅力を引き出す山口さんの魅力。二人の歌はますます高みを目指す珠玉のデュエット。次景の怪人の焦燥と孤独感。彼の悪行は許されないけれど、切ない。

★Masquerade
生粋のショーダンサー・保坂さんの魅力爆発。躍動感が半端ない。スタイルの良さ、ダンス力、指先まで神経の行き届いた超絶技巧。眩い光が放射されているようで視線を奪われました。本当にこれほど身体能力の高いクリスティーヌは世界的にも保坂さんだけと思う。山口さんも優雅でカッコいい。そして最後の全員の振付が揃うところは劇団四季の面目躍如。歌やダンスのテクニックをしっかり体得した四季の方々の群舞のレベルの高さは世界屈指と思う。


★Wishing You Were Somehow Here Again/
Wandering Child
父親の墓を訪れたクリスティーヌ。叙情的でしっとりとした声で、一音一音、丁寧に歌う保坂さん。楽曲の美しさが保坂さんの祈るような歌で更に身に沁みる。そして、アンサーソングのような怪人の呼び掛け。市村さんの歌が痛々しい。次第に重なる二人の歌。やはり、市村さんと保坂さんの直情型の重唱には心が鷲掴みされる。ラウルの健康的な大声に私も舞台上の二人と共に現実に目覚める。山口さんの喉の強さ。本当に適任。


★The Point of No Return
保坂さんは怪人のすり変わりに彼の第一声から気づいている様子。銃殺覚悟で現れた彼を強く抱きしめ、怯える彼を包みこむように歌う母性愛に満ちた保坂さんのクリスティーヌ。もはや引けない、二人だけの物語が始まる。二人の泣きながら歌っているような重唱に私も涙が止まらず。初見時はこんなに泣けなかったのに。是非とも音源を残して欲しい。そして、保坂さんの彼のベールを外す仕草が優しく、続く市村さんの独白にまたまた心がえぐられる。初見時と違う感動。号泣。

★Down Once More/Track Down This Murderer
そして、クライマックス。3名とも歌っているのに歌というより台詞の掛け合いのよう。濃密で緊張感のある芝居のような三重唱。それぞれの緊迫した心情がビシビシ伝わる。保坂さんのクリスティーヌは犯罪者である怪人に毅然としつつ、その上で、寛大な慈愛も感じさせて絶品。やはり、この役はオペラ的に歌えるだけではダメで、演技力が重要と思う。今見せてあげる、私の心。クリスティーヌの決断。保坂さんの清らかな渾身の美声、口づけされた市村さんの震える指先の演技が忘れられない。


クリスティーヌとラウルが去り、市村さんが最後の独唱を終え、怪人が姿を消した途端に客席から凄い拍手が巻き起こりました(青山さんのメグジリーが降りて来られたので、一旦拍手が止み、そして、改めて大拍手)。

初見時は普通に舞台が完了してからだけ拍手が起こったので、如何にこの日の観客がこの日の舞台に突き動かされたのかが分かった感じで、あまりの感動的な光景に私の号泣にも拍車がかかりました。私も涙でぐちゃぐちゃになりながら精一杯の感動への感謝の拍手を送りました。

尚、保坂さんのクリスティーヌは短命でした。周知の通り、浅利さんが「オペラ座の怪人」と並行して、銀座セゾン劇場での「夢から醒めた夢」を進めたからです(同年7月開幕)。浅利さんのバーカ😀。夢夢は好きな作品ですが、もっと保坂さんのクリスティーヌを見たかったです。

補足ですが、同行した知人は保坂さんのクリスティーヌは怪人から逃れるために最後にキスをしただけ…のように見えた…と話していて、私だけが異常にハマり過ぎただけ?かも知れません。

ということで、また、思い出を書き留めていければと思っています。久々に今の四季の舞台も応援したくなりました。今の出演者の方々の大半は私の娘と同世代~楽しみです。大ファンだった八重沢さんや秋本さんも復活されておられるようで、コロナ回復次第、是非ともです。

観劇日 : 1988年5月15日(日)
オペラ座の怪人:市村正親
クリスティーヌ・ダーエ:保坂知寿
ラウル・シャニュイ子爵:山口祐一郎
カルロッタ・ジュディチェルリ:斎藤昌子
メグ・ジリー:青山弥生
マダム・ジリー:柴垣裕子
ムッシュー・アンドレ:沢木順
ムッシュー・フィルマン:山本隆則
ウバルド・ピアンジ:北川潤
ムッシュー・レイエ:吉谷昭雄
ムッシュー・ルフェーブル:青山明
ジョセフ・ブケー:水島弘
競売人:松本幸生
 
アンサンブル
青木朗、喜納兼徳、高桑満、林和男、佐野正幸、
杉江真、山下清美、馬場友里恵、花岡久子、
横山幸江、八月真澄、吉岡小鼓音、神野京子、
潮田由美子、三橋葉子、飛田ほなみ、藤倉真奈美、
加藤ゆみ