涼風真世さんのラストバウ公演。

断捨離中に昔のビデオを再見しました。サヨナラ公演の「グランドホテル」の大劇場公演と東京宝塚劇場公演の間に二週間だけ上演された作品で、改めて名作だと感服しました。


主筋は涼風さん演じた可愛い妖精のメフィストが羽根知里さん演じた悪魔イヴリンに騙されて堕天使となり、人間界の麻乃さんさんや天海君らの命を狙うという物語。

小池先生の大劇場デビュー作「天使の微笑み・悪魔の涙」に登場したメフィストフェレスを主役にしたスビンオフ作品。前作と違って誰も殺さず、嫉妬心に主眼を置いた心理サスペンスになっている視点の鋭さに圧倒されたのを良く覚えています。

物語の舞台を芸能界にしてバックステージ物の面白さを醸したり、人間をコケティッシュに描いて冷酷な悪魔との対比を鮮明にしたりと、舞台装置も神秘的でしたし、演劇ファンとして優れた作劇に感服しました。

また、サヨナラ公演「グランドホテル」と「ブロードウェイボーイズ」では限界があった涼風さんの妖艶な魅力とドラマチックな歌唱をたっぷり堪能できたこと、そして、当時、羽根さんの大ファンだった私には(ウィングクラブに所属してました)、彼女の蠱惑な魅力の集大成作品として非の打ち所のない見事な当て書きが実に嬉しかったのも懐かしい思い出です。


あと貴重な事実として、当時は知る由もなかった「エリザベート」のウィーン初演から一年も経たないうちに「エリザベート」の楽曲が使われていたことで、これはもっと語り継がれて良いと思っています。日本で最初にこの作品の楽曲を歌い踊ったのは、恐らく、この作品に出演者された方々です。

92年9月 ウィーン「エリザベート」初演
93年5月 月組「ロストエンジェル」
96年2月 雪組「エリザベート」初演

使用されていたのは次の4曲でしたね。

♪我ら息絶えし者ども
メフィストが下界に堕ちる時の群舞に使われ、緊張感ある雰囲気に一気に引き込まれました。妖艶な羽根ちゃんがソロを歌いながら、かなめちゃんを足蹴りもしてました。

♪私だけに
歌手を夢見る麻乃さん演じるヒロインがオーディション場面で歌った曲。軽快な曲調と爽快な歌詞にアレンジされました。私は観劇後に何年間も脳内リピートするほど大好きでした。

♪最期のダンス
メフィストの涼風さんの独唱。獲物の天海君演じる青年を執拗に誘惑する場面で歌われ、今に思えばこの時の涼風さんは正にトートそのものでした。

♪闇が広がる
涼風さんと羽根ちゃんが人間をチェスに見立てて冷徹に歌う二重唱。作品最大の名場面。刹那的に曲調が状況にぴったりで、小池先生もこの曲に魅せられたんだと思います。

美弥るりかさんが宝塚おとめで演じたいと書き続けていたのも有名です。84年生まれだそうなので、当時、まだ9才だったみやるりちゃんも客席におられたのかもと思うと感慨深いです。

残念ながら再演されない理由としては、改めて調べると、「エリザベート」以外にもクルトヴァイルの曲や洋楽が沢山使われていて、宝塚オリジナルが殆どないという楽曲構成が主因かなと思っています。

昔の宝塚は信じられないほど様々な曲が使われてましたよね。映像化を断念したり、再演時に別の曲に差し替えられ、初演の感動がズタズタにされて戸惑うことも少なくなくて、昔は平和な時代だったなと思います。

いずれにせよ、「エリザベート」の楽曲を日本で最初に商業演劇で使った作品に出られた当時の月組の方々には改めて敬意を表さずにはいられません。

ロスト・エンジェル
1993年月組バウ公演
作演出 小池修一郎

《出演者》
汝鳥 伶 旭麻里 涼風真世 幸風イレネ 若央りさ
羽根知里 蘭玲花 真代朋奈 夏河ゆら 暁なぎさ
真織由季 越はるき 中条まり 美原志帆 美城まり
天海祐希 鷹悠貴 松波美鶴 甲斐千ひろ 木南あづさ
麻乃佳世 汐風幸 一紗まひろ 花丘美幸 祐輝薫
那津乃咲 水月静 山吹紗世 逢原せりか

《主な配役》
メフィストフェレス*涼風麻世
アンジェラ*麻乃佳世
マイク*天海祐希
アルバート*汝鳥伶
ブライアン*若央りさ
イヴリン*羽根知里
ラウル*真織由季
ギャビー*汐風幸

久世さんや風花さんは「マンハッタン物語」公演組でした。

ビデオは出ているので、DVDにして欲しいのですが、それも著作権で叶わないのでしょうね。新型コロナということで、許して欲しいものです。