「バチが当たった」。
クマオからそんな言葉が出るとは思わなかった。
とは言え、どこか「因果応報」とか、「自分の蒔いたものは自分が刈り取る」とか、
そういうことを信じている私からすれば、クマオのやっていることは、確かに「バチが当たる」
レベルに相当するとも思える。思えるが、今はそうは思ってほしくない。
私は、言ってはいけないとわかっていながらこんなことを言ってしまう。
「違うよ。それを言うなら、クマオさんの彼女がサゲマンなんだと思う」。
クマオはぎょっとした顔で私を見る。
「クマオさんは彼女と付き合ってから、あまりお仕事も頑張らなくなってる。帰る時間ばかり
気にして早く仕事を切り上げる事ばかりしてた。男にそんな風にさせる女ってサゲマンだと
思う。」
いったん言い出したら、止まらないのが私だ。
「私は違う。私はお仕事優先にしてほしいといつも思ってたし、そう言ってきた。
私はクマオさんがどんどん仕事を大きくしていくのを傍で何となく感じているのが幸せと
思えるから。」
そうだ。クマオの女は今のステータスのクマオしか知らないのだ。
だけど、クマオだって最初からこんなにセレブ的ではなかった。私はそれを知っている。
「昨年度の業績だって、初めて伸び悩んだって言ってたし。その上、ポリープがそんなに
大きくなってるって聞いたら・・」。
「りこ!」。
さすがにクマオは制する。しまった!言い過ぎた。
「ごめん。私は突然こんなこと聞かされて、ショックだよ。どうして今の今まで何にも言ってくれなかったの?悲しくなる。」
明日水曜日は女は仕事は休み。きっと彼女も付き添っていくのだ。前もってその段取りに
なっていたんだ。私は完全に蚊帳の外だ。
「りこ、ごめんね。でも大丈夫だから」。
いくらクマオが取り繕ってくれても、彼女の存在はもう不動の岩山のように感じる。
そして、クマオの横で妻のように甲斐甲斐しくクマオの世話をする女の姿が目に浮かぶ。