妄想のお話です
現実世界に帰れる方だけどうぞ
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"禁欲、しなくてもいい?"
我ながら馬鹿なことを言っていると思う。
言ってはみたものの果たして上手くいくのかどうかの確信はどこにもない。
今までの自分は演じる度にその役に引きずられるからできるだけ翔くんとの距離を置いてきた。
恋愛の要素が強い役が多かったせいもあるけれど、翔くんを好きな気持ちと区別をつけるために相手役を好きな自分を虚像してそれになるために尽力を注いでいた。
そのやり方を今更覆せるのか。
「お前がそうしたいならいいよ」
今にも眠りに落ちそうだった瞼は自分の申し出にはっきりと開いたあと、弧を描いて眦に皺を作った。
仕事の時には見せない安心しきった微笑みにも、つないだ指先にも擽られて甘やかされてるのがわかる。
「でも、ドSで変人な弁護士センセイにヤラレルのはやだよ」
悪戯な眼差しが上目遣いで冗談を絡めて嗤うから無意識に詰めていた息を安心して吐き出した。
「そう?たまにはよくない?」
「遠慮します」
丁重にお断りされるから、なりきって仕掛けたらたぶん蹴り倒されるんだろうなと思いつつもちょっとは画策したくなる。
そんな風に攻めたことはないけど、気持ちイイことには意外と積極的な翔くんなら案外いけるんじゃないかと思う。
まあそれこそ自分が役になりきらなきゃ難しいかもしれないけれど。
「いつものお前で充分だよ」
そう牽制されてしまえば芽生えたいたずら心もあっさりと引っ込めるしかない。
別段アブノーマルなことを求めているわけでもないし、マンネリ化してるわけでもない。
ただたまに、コップに注いだ水が容量を超えて溢れ出すように、愛おしく想う気持ちが頭から爪先まで満ち満ちて限界を超える時、箍が外れるのではないかと想像することがある。
彼が全幅の信頼を寄せてくれている、そう思えばその想像を実行に移さずにすんでいるけれど、注ぎ加減ひとつでコップの水が溢れるのは容易なことだ。
「気が変わったらいつでも言ってね」
指先一つ、気持ち一つでどちらにも転ぶなら、その指先一つ、言葉一つで操られていたい。
「馬鹿言ってないで早く寝ろよ」
再び襲ってきたのだろう睡魔に欠伸をひとつして、今度こそ瞼を下ろして心持ち短くなった睡眠に身を投じようとしている翔くんに少しだけ伸び上がって小さなおやすみのキスをした。
2016/05/12