これは、ある家のキッチンの壁に貼りついている吸盤たちの物語。


吸盤はフライパンやフライパンの蓋、バナナなどを吊り下げる為に、一生懸命壁に貼りついている。


「うー、くそおもてーな」


「おぉ、フライパンの吸盤大丈夫か?」


「いいよな。フライパンの蓋は軽くてよ」



フライパンを吊り下げている吸盤は、ここ最近耐久性が弱くなっているのか、壁から剥がれ落ちることが多かった。



「あら、私だってバナナ重たいけど頑張ってるのよ!」


「バナナは少しずつ軽くなるからいいじゃねぇか。この家の主人は毎朝バナナ食べてるしよ」


「フライパンの重さはこの先もずっと変わらねぇんだよ」


バナナを吊り下げている吸盤も、時々剥がれ落ちることがある。



「私だって、あと2~3日したらまた新しいバナナになって重くなるのよ」


「悪かったな。バナナが重くてよ」


吊り下げられているバナナは反論する。


「あ、ごめんなさいね。バナナのことを悪く言ったつもりわないわ」


「あ、やべ。おれ落ちそう」


「おい、フライパンの蓋の吸盤大丈夫か?」


「うわ!」


「いってぇー。しっかりしてくれよ吸盤」



「フライパンの蓋と蓋の吸盤大丈夫か?」


「落ちたけど、俺は吸盤で軽いからたいして痛くない」


「あー、いてぇな。俺は痛い。」


落ちると痛いのは吊り下げられている、フライパンの蓋である。



「あ、おれも落ちる」


「うわ!」


「大丈夫か?炊事手袋と炊事手袋の吸盤!」



「あぁ。俺たち2人とも軽いから落ちても痛くはない」



「そうか。それなら良かった。

でも、おまえが落ちるなんて珍しいじゃねぇか」


「うん、おれは初めておちた。もう寿命か。」



「あー、おれ久々に落ちたかも」


キッチンの床に落ちた、フライパンの蓋の吸盤。

こちらの吸盤も耐久性が弱くなっている。



「おまえ、主が帰ってくるまでそこで休むといいよ」

優しく言葉をかける、フライパンの吸盤。


「そうだな、何も支えるものがないってのは楽だな」


炊事手袋の吸盤はキッチンの向かいのトイレのドアの近くに落ちていた。



「落ちるってこういう感じなんだな、なんかもう俺の人生終わりなのかなって感じ」



「ばか、そんなこと言うな。暗くなるだろ」


「今日はこの家の主人は遅いのかな」


「どうだろうな」


「おれ、あともう少し床で休んでたい」



しばらくして、この家の主人が帰ってきた。



たっだいまー♪

あれ、吸盤がまた落ちてる。

面白いから写メっとこ。



そして、主人の手によってまた壁に貼りつけられた。


「はぁ、まだ俺らは頑張んなきゃなんねぇってことか。」



「ここの主人は倹約家だから、中々新しいものは買わないわよ」



「そうだよな。」


「まだ頑張るか。」



今日も彼らは壁に貼りついて、自分たちの使命を果たしている。