父が暴れるのはいつも唐突だ。
朝早い日もあれば
夜寝る頃に始まることもある
朝でも昼でも夜でもお構い無しで
本当に父の気分次第

小学生の頃
学校に行く準備の段階で父がぶちギレた
理由はもはや覚えていない
ただいつもの
『父の気分』だったと思う

人ではないような形相で叫び散らす父に背を向けて
母は兄と私に学校へ行く様に言った
恐怖で声も出せないままランドセルを背負って
家をあとにする
学校に着いても怖くて不安で
席には座っていられなくて
担任の机の下に潜った
きっと誰か大人に
母を助けて欲しかったのだと今は思う
担任が教室に入ってきて
出てきなさいと強い口調で繰り返す
知ってほしいことはたくさんあるのに
うまく説明できなくて
私はポロポロ涙が零れて
何も伝えたられないまま這い出して
席に着いた
家に帰って無事な母を見るまで
それはそれは辛い時間を過ごした

今日仕事の前に父がぶちギレた
なに不自由なく育ててやったのに
なぜ私たち兄妹は
他の人の様に人並みになれないのかと
なぜそんなにも愚鈍なのかと
いつもの様に人ではないような形相で叫び散らす父と年老いた母を置いて家を後にする時
やっぱり泣きたい気持ちになった

もう何十回何百回こんな思いをしただろう
それでもまだ逃げ出せない私たちは
やっぱり父が言うように
人並みではない愚鈍な人間なのだと思う

でも大部分は
絶対お前のせいだぞこの糞ジジイ
隣の部屋で寝息をたてる糞ジジイは
きっと地獄行き確定だと思っている。
こんなに会いたいのに
なぜ何年も
気持ちに蓋をしてきたのだろう

最近あまりにも苦しくて
ずっと考えない様にしてきたことを
考えてみた

そもそも
別れたいと言い出したのは私
その事で彼が不安定になり
彼の家族が出てきた
息子をこんなに苦しめる『私』を
彼のお母さんとお兄さんは許せなかった
私の実家にも
母の携帯にも朝夜関係なく電話がきて
いかに私が悪い人間かを説いた
彼からの着信と思って慌てて出た電話は
彼のお兄さんからで
弱った私を強い言葉で罵ったことや
父と車で彼の実家まで行き
謝罪したことなど
彼はきっと今も
本当のところは何も知らずにいるんじゃないかと想像している

今ならわかる
別れたいと言ったのは
慢性的な不安を抱えて生きてきた私が
無条件に愛してくれる彼を試したのだと
別れたいはずがなかった
この人は何があっても私を諦めないと
ただ証明して欲しかった
本当に幼稚で
愚かだった

もう2度と連絡しないでと言う彼のお母さん
またご縁があればいつかと
言葉を選んでくれた彼のお父さん
責めることは何も言わなかった私の両親
この4人の気持ちを思うと
私からはもう2度と連絡は出来ない
当時そう思ったことを思い出した

だけどいつか
彼の両親
私の両親
誰もいなくなったら
迷惑をかける人がいなくなったら
連絡してもいいだろうか

それとも彼がもう2度と
私のことなど思い出したくないだろうか

誰か今すぐに
私に答えをくれないだろうか
私を助けてくれないだろうか
会いたくて
会いたくて
会いたくて
どうしようもない時がある

遠い過去の
ほんの束の間の幸せを思って
今をずっと不幸に生きている

あの人は幸せに生きてくれていますように
なんて綺麗事を
私が願うまでもなく
あの人はきっと
今を幸せに生きているんだろう

それでも時折願ってしまう

私を思い出してほしいと。
私の夢をみて
泣いて目覚める朝があればと。
誰もいない部屋で
私の名前を呼んでくれたらと。

それから

会いたくて
会いたくて
会いたくて
どうしようもない時を
過ごしていてくれたらと