CSVは、ビジネスの中で獲得したノウハウを活用して貧困や飢餓、環境などの社会問題の解決に貢献すると同時に、企業の競争力も高めようという考え方。競争戦略論で知られる米ハーバード大経営大学院のマイケル・ポーター教授が提唱した。
国内企業にも広く取り入れられている従来のCSR(企業の社会的責任)の考え方は、慈善事業の色合いが強く、企業の事業戦略と相関関係が薄かった。これに対しCSVは、長期的には社会貢献活動による企業の利益を計算に入れているのが特徴だ。
来年が創業100年となるネスレ日本は先駆的な社会貢献への取り組みで知られており、CSVにも力を入れている。
ネスレグループが、半世紀前にインドで乳製品工場を設立した際には水道、電気、道路などのインフラ整備に加え、地域の酪農家に獣医や品質管理の専門家を派遣するなど技術提供も積極的に行ったという。当時、企業のこうした大規模な社会貢献投資は例がなかった。しかし投資を通じて雇用を創出し、現地の購買力が向上したことで、結果的にはネスレの商品購入者を広げることにつながった。
ネスレ日本が、2010年から国内で実施している「ネスレ ヘルシーキッズ プログラム」も、こうした経験に基づくCSVの発想で展開している取り組みだ。食育の教材を小学校に無料配布するほか、栄養教育のスタッフも派遣。栄養素に見立てたボールを集めながら行う「鬼ごっこ」など、ユニークな教育カリキュラムを提供している。今年度は11月末までに1350校へ32万部の教材を配布した。
CSVを担当する同社の村本正昭執行役員は「健康のことを考えた企業だと知ってもらおうと長期的な視点で行っている」と話す。
リコーがインドの学校に寄贈した印刷機をもとにマーケティングを行ったり、日立製作所が環境に配慮したデータセンターで競合との差別化を図るなど、社会貢献と事業の関係性を強める試みは日本企業でも目立ってきている。「戦略的CSR」と呼ばれることが多かったこうした取り組みは、「共通の利益」というCSVの考え方によって国内でも進化していきそうだ。
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