木春菊  [偕老同穴] 証 66 | シンイ二次小説でんべのブログ

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「ウンス・・これを」

「え?なあに・・・」

三人はウンスの私室ではなく
兵舎のヨンの私室まで、脚を運んだ
少年と言えど、己以外の男を
ウンスの部屋には、招きたくない
ヨンの断固たる意志の表れである

「・・・ヨン、これは・・・」

ウンスの瞳が徐々に潤み、今にも
零れ落ちそうになる

「百年前…ヒョイアボジに渡した
小刀よ、どうしてこれがここに?
とってもお世話になった人なのよ
腕っぷしは、強い人だったけど
戦の世で、刀も持たない人だったから
護身用にって、渡して別れたの
ヨンと再会したあの日
彼方の世で、襲われそうになり
ひっそり後を付けていて
助けてくれたのは、ヒョイアボジだった
どうして、どうしてこれがここに・・」

「ウンス…」

ヨンはそう切な気に呟くと
椅子から立ち上がり、隣に座るウンスを
ふわりと抱き締め、その大きな掌で
涙を拭く

「この若者は、その方のひ孫にあたる
方らしい・・・」

「え!!ヒョイさんの?」

ウンスは大きな瞳をより一層見開き
サンギョンを凝視する

「・・言われて見れば、ヒョイアボジ
に、目元がそっくりだわ
だって・・百年と言う時は過ぎて
しまったけど、私にとっては一年も
過ぎてないのよ…忘れる筈が
ないわよ…ヨンそうでしょう?」

ウンスはヨンの胸の中で、ひとしきり
涙を流した後、気を落ち着け
サンギョンに向き合う…


「ヒョイさんは、あれからどうなさって
いたのかしら…教えて欲しいんだけど」

「はい、医仙様…先ずはどうして
王宮にたどり着いたかですが、迂達赤
隊長が貴女様の想い人と、曾祖父から
代々伝え聴いておりましたので
私の代で、そろそろお目に
掛かれるのではと思い、訪ねて
きたのです、父は
貴女様に抱かれ、戦場を逃げ回ったと
微かに覚えておりました」

「・・そうね、確かに蒙古の襲撃が
頻繁にあり、田舎でも容赦なかったわ
焼け野はらって、あの時の事を言うと
思うわ…」

ウンスは、当時を思い出しているのか
一瞬遠い目をし、身体を強ばらせる

「ウンス…辛くば話さずともよい
赤子に、差し障りがあってからでは
遅い故」

「ううん…大丈夫よ、乗り越えなきゃ
ならない壁みたいなものだから・・
ヨンが、そばに居てくれるから大丈夫」

ヨンは、ウンスの手の甲を大きな手で
包み込むと、ここにおりますと想いを
込め、ぎゅっと握る

「大丈夫なんですか?赤子とおっしゃい
ましたが・・ご懐妊なさって
おいででしたか・・」

「ええ・・・ヒョイアボジが命懸けで
私をこの世に、送り返して
くれたんだもの…幸せにならなきゃ
罰があたるわ…」

サンギョンは、伝え聴くユ・ウンスの
人となりを垣間見た気がし、嬉しくなる

どれだけ苦境に立たされても決して
諦めない、必ず想い人の元へ戻り
幸せに過ごしているから
サンギョンお前が大きくなれば
会いに行くんだ、そして
これをお返ししろ

と、祖父から聴いた覚えがあるのだ

「あの、曾祖父ヒョンは天命を
全うし、眠るように逝ったと聴いて
います…ですからどうぞ心安らかに
お過ごし下さい」

「・・・そう良かった・・あの後
どうしたか、気になっていたのよ
私を見送ってくれたけど、村まで戻る
のに、二十日…まあ、男の脚だから
二週間って感じだろうけど
戦かを潜り抜け戻れたのね・・・」

「・・・その方の曾祖父には
奥が、一方ならぬ世話になり俺からも
礼を申す・・して、父上を助けて
欲しいとは如何なることだ」

「へ?あの時私が抱いたあのこの子こと
よね!どうしたの?何があったの?」

ウンスは気ばかり焦り
サンギョンを質問攻めにする

「ウンス、落ち着かねばならぬ
以前教えたな、深く息を吐き
丹田に気を集めてみよ」

ウンスはヨンに以前習った
丹田呼吸法を続けると、不思議に
憑き物が落ちたように落ち着く

「貴方、ありがとう
落ち着いたわ…呼吸が楽になった・・
で、お父さんはどうされたの?」


「・・・はい、南京に一族で
住まいを構え商いを営んで
おりましたが、ある日突然父が
姿を消したのです・・」

「・・・うそ・・・」


「姿を消したとは如何なることだ
揉め事に、巻き込まれたやも知れぬと
思うておるのか?」

「はい、姿を消し既に三月(みつき)に
なります、曾祖父の教えを守り慎ましく
人から、恨みなど買う父ではありません
ただ、思いあたるとすれば
南京の市中の、同じ材木問屋を
営む人からの妬みでしょうか」

「サンギョンと申したか、年は幾つに
なる?」

「十五になります…」


「へ?十五でこの落ち着いたもの
言いなの・・・信じられない・・」

「すみません、父の元で幼き頃より
商いを学び、人の付き合いもそれなりに
場数を踏んできたもので、大人びた
もの言いになってしまいました
可愛いげがないと、母に
よく叱られます」



「そうなのね…でも幸せにそうで
良かったわ・・でも、心配よね
ヨン・・・どうしよう?」



ウンスは、懇願の眼差しをヨンに
向ける。ウンスの願いを断れる筈も
なく…ヨンは盛大にため息を
溢すと言葉を繋ぐ



「はあ…分かりました・・・スリバンに
頼み調べさせ、始末をつけます
されど、ウンスは・・・」


「分かってます!余計なことは
しないわ…けど・・南京って
遠いの?・・・待って・・ 確か
서울(ソウル)よね、ここが개성(ケソン)?
だと思うから・・・地理的に言うと
・・・あ、ごめん…気にしないで
私の世で、どのくらい離れている
かなって思ってね…」


「チュホンならば一日で往復できる筈
ウンスが、世話になった恩人を
俺は無下にはせぬ故」

「ヨンありがとう…嬉しい」

サンギョンの父の消息をスリバンに
追わせ、それが判明するまで
サンギョンは、ウンスの切なる願いに
より、チェ家に逗留することになる





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