サザエさん―シルバ(50)
テンプラそば三つ! 出前は、届けばいいのです。
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朝日文庫版34巻〔114頁〕・昭和42年
『頭の上は禿げていますが、まだ、後頭部に白髪が残っているお爺さんが住んでいる家です。ねじり鉢巻きをしたイナセナお兄さんが、ドンブリが3個乗っている大きな盆を右手に捧げ持ち、玄関の引き戸を開いて、「テンプラそば三つね!」とキップのいい声を張り上げて、玄関の中に入ってきました。応対に出て着たお爺さんは、出前のお兄さんを睨みつけて、「商人はうらにまわって」と叱りつけています』
『裏の勝手口に、「テンプラそば三つネ!」と言いながらお盆を肩に担いで現れた出前のお兄さんは、待っていたお爺さんに、「おまたせしましたご注文はテンプラそば三つですね」と言うように注意されています』
『出前のお兄さんは、お盆を丁寧に廊下に置きながら、「おまたせしました、ご注文はテンプラそば三つですね」とおとなしく、静かに言いました。すると、お爺さんは、怖い顔をして、「いやウチはたのまない」と言いました』
『出前のお兄さんは、ドンブリが三つ乗った大きなお盆を肩に担ぎ、しかたなく外に出ました。お爺さんは、「あきれたもんじゃ」と罵声を浴びせています。出前のお兄さんは、お盆を肩に担いで、「どっちがあきれるか!」と言い返しながら、自電車にまたがっています。その家の白壁には「正しい敬語の研究所」と書いた立て看板が出ています。サザエさんが、見ながら通り過ぎていきます』
格式ばったお爺さんがいました。嫌ですね! お兄さん、相当腹が立ったでしょう?研究所の所長か何かは知らないが、玄関から入ると、「裏に回れ!」にはカチッとくるよね!
お兄さんは、「俺が言った「テンプラそば三つね」は、「ヘイ!お爺さん出前ソバ三つでしたね!」と言うことだよ。いい年をしたジイサンがそれくらいわからんかな!」、グーッと抑えて、「おまたせしました、ご注文はテンプラそば三つですね」と丁寧に言ってあげたのに「いやウチはたのまない」とはなんだい!頭に来るな!ドンブリ引っくり返して、ソバだらけにして、引きあげてもいいんだぜ!
しかし、そうはいかねえ~、俺んちの店は、代々伝わる老舗だ!ジイサンとこのような何時できたか判らん、いい加減な名前だけの「正しい敬語の研究所」とは違うんだぁ!」と言ってやりたかつたでしょう。
しかし、それは出来ませんでした。お蕎麦屋さんは、「正しい敬語の研究所」以上に立派な客商売の威勢のいいお店ですから、妙な評判を立てられると大変なことになりかねません。グーッと抑えて辛抱、辛抱ですね!
余計なことですが、「正しい敬語の研究所」のお爺さんは、昔、映画「七人の侍」などに出演の俳優・志村喬氏にソックリで、思い出しました。