希死感〈2〉

 僕、安部建は長い夢を見ていた。僕は自分の不幸が存在している事に苦痛を感じていたがそれはほとんど幻想で、不幸はごく一部しかなかった。しかし僕はその小さなことを気にしていた。精神病院から退院してから僕は一人暮らしを新たに始めた。その頃に年齢は今度こそ正真正銘26歳になっていた。友達などそもそも多くもなかった。一人しかまともに僕と関わってくれる人はいなかった。その彼ですら最近めっきり連絡が減った。忙しいのだろう。僕は統合失調症と診断されたが後になって一時気分障害だと言われた。僕の精神病理はどのようなものかは分からない、それは診察している医師にしか分からないのかも知れない。僕は多くの苦しみを味わってきた。嘘から始まる負の記憶は葬り去りたい過去だ。僕は死にたいと考えるようになった。もう生きる事に疲れた。これ以上生きていて何になるのか。若いから何なのか。その内良い事あるね、なんてどの口が言うのか。楽観主義であれば幸福だが僕は細かい事を気にしすぎてしまう性質なのだ。僕は今でも顔が端整と褒められる。僕の魅力は潰えていないのだ。まだまだこれから色んな出会いが待っている、楽しみだと人から言われる。僕は本当に大丈夫なのだろうか。

 僕はしんどいし、もう生きたくない。今住んでいる場所は非常な住宅街である。両親は僕を自立させたいらしい。僕は仕送りでなんとか過ごしている。しかも芸術家!僕は自分がゴッホであるかのように思っている。ゴッホは不世出の画家であった。しかし僕と同じように先駆的で前衛的な作品は人口に膾炙し、人気を博す事はなかった。僕はパソコンを使ったりスマホを使ったりして自由に暮らしている。僕は褒められたりもする。過度な期待は必要ない。僕は虚栄心から嘘を言う事もあるがそれが嘘だというのは一目瞭然である。それは諧謔であり、僕の人生から湧き出る病的性質の一環だ。僕はたまに外に出て作業所に行っている。パソコンを用いた作業で一日に1000円もらえる。最低2時間は働く必要があるが僕はその事に戦慄している。僕の住む土地は観光地である。在宅勤務も出来るとの事だが、まあ無理してはいけない。そもそも作業所は社会に適応不能な人間が行く場所である。だから自分のペースで生きる事を辞めて、他人に阿諛追従したり、社会的な暗黙のルールに隷従したりする必要はない。

 多くの人々がこれはエッセイ的だと言う。ご明察である。僕は情景描写も乏しい。あるのは自分の心理描写である。また母親は歯を強く磨いて出血した僕に「きつく磨かなければ治る。今までしばらく出てなかったんだろう?大丈夫」と助言をくれた。僕は彼女のその言葉に巣くわれる思いだった。

 病気は良くなってきているのか、希死念慮は消えないし人の多い場所や外ではパニック発作もあるけど。ある意味あの夢の内容が現実とシンクロしている感じは否めない。僕は非常に奇異な奴に半生を解説されていた気がするがあれは何だったのだろう。あれは自分自身か?自分を俯瞰し、妖術的な世界の中で現れた出来事に支離滅裂ながら言葉が生じたという事か?真相は不明だ。

 僕はアニメオタクではないが最近よくアニメを見ている。他人から見ればアニメオタクなのかも知れない。でも出会いを求めて外に出る事に若干の勇気が惹起されてきているし、僕はやはり大丈夫なのだと思う。僕は自分自身を憫笑していたが今では自分を受け入れて自己を愛して生きていきたいと思うし、実際それが治療には最善であると主治医も言っている。僕の病気の正体は定かではないが僕は何とか生きている。

幻聴は僕に向かって「お前は馬鹿だよ」「どこが美形だ」「全然お前には興味がない」「微妙」と言う。僕は統合失調症の幻聴が治るという事は幻聴が聴こえなくなる事ではなく幻聴があってもスルーしたりできるようになる事を指すという。僕は色んな事を気にしすぎだ。他人の評価が不条理なものであっても僕は自分なりに懸命に生きる。もう誰にも邪魔はさせない。僕は朝に弱いので仕事は昼からにしている。変更可能なシフトなのだ。作業所、いい場所だ。少しでも社会貢献が出来るのは恐悦の至りである。

 僕は病気になった事を今では不幸だとは思っていない。病気が混乱の中僕を成長させてくれた。混沌の中、罵詈雑言の中、喧騒と威圧、陰湿な迫害、友達との別れ。僕はどうしても強く生きないといけない。いつまでも嘆いてばかりでは何も変わらない。前向きだ、不幸を、辛い状況を吹き飛ばすには前向きでないといけない。僕は多くの人に馬鹿だと悪罵されても自分の信じた道を行こうと思う。たとえその先が更に失意のどん底だとしても。絶望の中でも諦めない心、それが僕の哲学だ、何も難解ではない。単純明快な哲学である。そうする事できっと人生は上向きになる。僕の母のように強く趣味にも生きて楽しむ事も出来る、僕も仕事をしているから何も負荷を感じる必要はない。

 僕は純文学に傾倒しているのかも知れない、執筆の趣としては。この前仕事で女性の方の態度が依然とは打って変わってフランクなものになった。その事に僕は何も気にしてはいない。僕は多くの人と関わって生きたい。生きる、これが僕の未来永劫のテーマなのだ。僕はきっと幸福になれる。人生は無意味だ、地獄的だと訴える人々もいるがそれは解釈次第だ。自分の解釈の中で生きる事だ。まあそれが過剰になりすぎると統合失調症の妄想による二次被害が出る可能性が高いのだが。

幻聴、それに僕は何年付き合ってきただろう。幻聴は僕をいじめぬいた。僕を不安にさせ、僕をわななかせ、僕に希死念慮を抱かせた。また先ほどまで死にたい、希死念慮が絶えないと言っていたが今の僕はそれが雲散霧消しているのを感じる。僕は不条理を超えた、人生を送るのだ。僕がそうする事で多くの人々に愛と希望を伝えたい。そして僕の悲憤慷慨した社会とは別の社会を作りたい。これは単なる野心であり、現実離れしている事は否めない。僕はどうすれば良いのか、思うように生きれば良い。母親もそう言っていた。また作業所の職員に僕は哲学科出身だと言うとやっぱりと言われた。その人は女性で大学では心理学を専攻していたらしい。僕は人と仲良くなる為に色々と頑張ってみようと思う。マッチングアプリも始めた。課金するか否かは僕の決心次第である。今の時代アプリから結婚したりする人が多いらしい。僕もそのような存在になれれば良いと思う。この書簡は僕が独自の脳からひねり出した文章を主にして、経験などを語っている。

 僕は他人に「僕は顔が整っていると言われるんですよ」と笑い半分で言うとその人は「やっぱり!」と言っていた。「お母さん似?お父さん似?」と言われた。僕は母親似ですと答えた。その他人は作業所で知り合った女性である。僕よりも年上である。僕はこれ以後も絶えず活動を続けていこうと思う。僕はどう頑張っても神にはなれない、天使にもなれない。しかしそれでも慈愛や顧慮、理解を示す事は出来る。自分にも他人にも優しくというのをモットーに僕は生きていく。僕が統合失調症であってもその他の疾患であっても生きている事は変わりない。だからこそ他人に影響を与える事も出来る。僕は好きな作家と言えば古典ばかりではあるので現代作家の作品をほとんど読んでいない。だから読書好きの人ともたまに話が合わなかったりする事もある。

 僕の人生とは簡単なものだ。それを婉曲的に説明したり、持って回った言い方で説明すれば幾らでも長くなりうる。そういう訳で僕自身の生命の記録をここから先も伝える。僕は本当に何もない今の日々に平穏無事を感じている。社会復帰も出来そうだとヘルパーの御仁から言われた。僕は人生に辟易したりはしていない。また無駄な緊張感を持って人生を送るつもりもない。諦める部分は諦めてこれから切り替えていこうと思っている。僕は恋愛もしたいので男磨きも頑張っている。今のところ恋愛模様は何の変化もない。悔しい事に僕はモテないらしい。昔からそうだった訳ではない。暗くなる前位は学校でもモテモテだった。僕はあの頃の栄光が懐かしい。しかしまだまだこれからだ。ネットで知り合った人でも恋愛関係に発展する可能性もある。まあ多くは手練手管であるだろうが。この世の中、邪気に溢れている。しかしその中でも折れずに立ち向かっていけばきっと希望通りの人生を歩む事が出来る筈だ。僕はそれだけを信じている。何が通信制高校に転校していれば、だ。僕はこれから必死で気の赴いた時にしたい事をしながらトレーニングをしていけば良い。この単純な文章の中で僕自身の決心が読み取れたなら幸いである。僕は不幸ではない。家族も兄弟も友達もいる。こっちから連絡するのは迷惑かもなんて思わずに自分から行けば良いのだ。僕はそうする事で中学までは色々やってきたではないか。どうしてあの頃のコミュ力を忘れていたのか。僕は元々持っている人間である。自分で己を悲劇の主人公にしていただけではないか。馬鹿げている。

 僕はまた絵の勉強に戻ろうかと考えているが、描く気が起きない。これは統合失調症の陰性症状と類似してある。もとに戻るだろうか。僕は非常に自分を案じている。自分を見つめていれば自分が如何に魅力のない人間かよく分かる。僕には頼るべきところが何もない、いや、明るさと前向きさだけはある。それだけが僕の希望である。人は自分に対し悲観する事もあるだろう。僕はそうだろうか、僕の自己評価は正当なのだろうか。自分を良く知っているのは自分だとの格言があるがそれは果たして的を射ているのだろうか。外からは雑音が聞こえる、人との話し声、帰納は誕生日パーティーの祝い声が聞こえた。これらは全て幻聴なのだろうか。精神病院では僕に優しくしてくれた看護師もいた。しかし出てしまえばそんな人は少ない事が分かる。これは僕が閉ざしているからだけなのだろうか。

 文章の晦渋さが文学的価値を決定づける訳ではない。僕はそう考えて今、活動している。ブログでも活動しているが、甚だ小規模である。僕はこれで正解なのだろうか?そもそも人生に正解などあるのだろうか?僕は今後も生き続ける。その際に参考にすべき経験は積み上げた。悪口が何だというのだろう。人気がなくても良いではないか。僕はそう思っている。僕は確かに一般人だ。ネットで人気者になった訳でもない。まだまだこれから。

 父親から福祉関係の手続きを地元でしておくとラインで連絡が来た。僕はやはり愛されている。僕を思ってくれている仲間もいる筈だ。僕は絶対死んじゃだめだ。希死念慮とはさらばだ。僕は今後、強く生きる為に一歩一歩踏みしめて生きていく。僕には僕のペースがある。それを乱さずに、生きていく。僕の元に入る刺激も一旦落ち着いて検閲をして受け止める。僕はすごい男だ、なんて昔は言っていたが、それは単なる冗談の延長線上である。僕は自分なりの模糊な幸せを模索していきたい。今は誰も長身女性の恋人もいない。マッチングアプリでも機会がない。僕には魅力がないためか、或いは何かが欠乏しているのか。僕より良い男性なんておびただしいほどいるのだから。僕は異性の理想が高いのだろうか。長身美人何て言うと身の程知らずと言われる事も多い。でも僕はそういった存在にこの身を捧げるつもりである。献身的に接して行って変えられる部分は変革していきたい。

 今の状態は非常に穏便に物事が進んでいる。しかし投薬治療を辞めてはいけない。辞める事で病気が悪化する事もあるからだ。僕は頑張ってやる。そして生き延びてやる。この殺伐とした社会を。

幻聴「お前何て誰も見ていないし興味もないよ」

僕「分かっているさ、それでも僕は生きるのだ。自分なりに強く優しく。きっと僕を見てくれている女性も次第に現れる」

幻聴「それは楽観主義的ではないか?お前は今までの人生でずっと童貞だったではないか。無駄に過剰なプライドを引っ提げて恋の機会を自ら損なわせてきたではないか。君は身の程を知れ」

僕「でも恋愛において安心感は必要だと思う。僕にとって長身美人、いや美人じゃなくても長身女性は安心感を僕にもたらしてくれる。無論例外はあるが」

幻聴「ならばその道を突き進め。その先にあるのは深い絶望だとしか思わないがね」

僕「僕は自分が上手くいかなかったら自殺してやるよ」

幻聴「お前は本当に強がりが好きだな。その強がりがストイックさに、懲罰的になっている事にいい加減気づけよ。お前が大切にしているのは古色蒼然の原始的な欲求に他ならないのだ」

僕「原始的な欲求を持たずして何になるのだ?僕はこれから本気で生きる。これからの人生を自分で明るく変えてやる。人にも臆さず、関わっていく。僕は本当に真剣に生命を生きているだけなのだ。もう存在しているからには投げ出す事も出来ない、僕はそう考えている」

幻聴「なあ、不条理の中で生きる感想はあるか?」

僕「不条理などは超えてゆく、僕はメタ不条理の体現者だ。僕は様々な意味での錯乱を通して病気の深潭を見て、現実の真髄を汲み取った。僕に配慮してくれる人々もいる。無茶はしなくても良い環境である。僕は顔も端整だし大丈夫だと思う」

幻聴「大丈夫ではないよ。お前はもっとスカッと生きないといけないのだ」

僕「それは僕も思っているところだ。色んな事を諦めなければならない時もある。病気と折り合いをつけて生きている人もいる。僕は彼らを模範とし、明るく前向きで生きていきたい。僕は自然に笑えている、大丈夫」

幻聴「お前は何か勘違いをしているな。お前は死ぬべき人間だ。恋愛なんてないし。功績もない。単調なのがお前の生きるべき人生なのにお前はもっともっとと求めてしまう。馬鹿げた話だ。そうする事で如何にお前が生きにくく、不幸になっているか。苦悩する程偉いだなんて頓珍漢だ。何が悩めるソクラテスだ。現実を見ろ。お前が生きているのはただのおっさんの人生だ。そこから逃れる事は出来ない。それでもかっこよく生きたいのなら自分の前途をもっとじっくり考えろ」

僕「うるさいなあ、もうじっくり考えているよ」

幻聴「なのに不注意で多動的なお前の性格は何なんだ?発達障害か?そもそもお前は障害者なのか?私は幻聴だと断言して良いのか?私が神の声である可能性はないのか?」

僕「お前は神の声なのか?」

幻聴「そうかも知れないって話さ。実際真実は私はお前には教えない。その不条理加減を知るが良い。不条理の中にこそ人生の美学が眠っている。お前はそれを発掘しろ。それがお前の使命だ」

僕「それで良いのだろうか。しかし僕はお前と話をしていると段々と楽しくなってきた。お前は天使かも知れない。毒舌なども交えつつだが」

幻聴→天使「そうだ、私は天使だ、ようやく気付いたか。このまだらボケ」

僕「それにしては少し口が悪いようだな」

天使「典型的な天使ではないからね、私は天使の中では不良だよ。まあ天界に秩序などはほとんどないが」

僕「天使と対になる死神がやってこないのは何故だ?」

天使「さあ、それは分からないよ」

僕「何だか今の僕プラトンの対話篇の主人公になった気分だよ」

天使「それはその通りだ。お前も読んだだろう、あの素晴らしい翻訳の対話を。私は荒れを目指してお前と会話している」

僕「しかし僕にはソクラテスのような知恵はない」

天使「あるよ、ただ埋没しているだけか、そもそも必要に駆られていないから使っていないだけか」

僕「ありがとう、天使。ところで君の名前は?」

天使「善だ」

僕「善って?善と悪の?」

天使「そう」

僕「神はこの世界にいると思うかい?それともアニミズム的な感じで広がっているのかい?」

天使「それについてはお答えできません」

僕「突如としてAIのようになるのは仕様か?」

天使「私も完全な独力で生きている訳ではないのだよ。人間が生きる為に食料を必要とするように、こちらにも絶対順守のルールがある。否応なしにそのルールには従わねばならない」

僕「天使の世界であってもルールに縛られるのか。まあ理想郷はないかも知れないってことか」

天使「いや、結構楽だよ、天使の世界は。頑張る必要も苦しむ必要もない。私のようにたまに人助けをするために下界に降りて対象者の知覚に直接語りかける事が出来るだけで」

僕「なるほど、ところで今の僕の病状をどう思う?大丈夫だと思うかい?」

天使「こうして私と話している間に安心出来ているのなら大丈夫、ただ外での空笑いや独り言は避けた方が良いと思うよ。統合失調症は天使の世界では何の差別も偏見も持たれていない。君のいる現実とは正反対にね」

僕「僕は意を決して昔の友達にラインでメッセージを送ったよ。返信が待ち遠しいが、もし辛辣な言葉が来ればどうしようかと懸念もある」

天使「その友達とはもう1年以上も会話をしていない友達?」

僕「そう、絶交されているかも」

天使「絶交は考えすぎじゃないかな。単に自分の人生を、お前とは枝分かれした人生を歩んでいるだけで」

僕「そう願いたいよ。僕の数少ない友達に拒絶されたらもう僕はショックで仕方がないよ」

天使「ところでお前、夕飯は何時に食べるのだ?」

僕「7時前後かな。毎回お風呂に入る時間は早いから、休みの日くらいは遅めに入ろうかと思っている。僕は昔デブだったが今はデブの面影がないと人に言われたよ」

天使「お前は自分が統合失調症になったのは試練だと思っている?」

僕「僕は統合失調症を事故のようなものと捉えているけど、僕の母親は試練だと思っているみたいだよ」

天使「そうか、客観的な意見が聞ける環境にいてお前は幸せだな。本当にぼっちだったらそんな事は出来ない筈だし」

僕「僕はね、昔は明るくて友達も多かったんだ。迂愚なところもあったし、驕ったところもあったけど何とか周りに馴染めていた。少年時代の驕慢や懶惰は社会的に一過性のものとして見過ごされがちだからね。でも大人になった今はそうではない。僕は責任を持って生きないといけない。出ないと永遠に孤独に拝跪する事になる。それは僕の不本意だ。要するに主人が誰かということだ。ある人は哲学だったり宗教だったりする。通俗的な心理学だったり、人間関係の豊饒さであったりもする。僕は皆と仲良くなりたいが疲れやすいという特徴もある。これは統合失調症の残遺症状と呼ばれるものだろう。僕は統合失調症の泰斗として生き、そして卒業していく、その経験を作品に導入する事が出来ればきっと史上空前の作品が生まれると僕は確信しているんだ」

天使「そうか、君が何を思うが勝手だが、あまり現実に期待しすぎると手痛いしっぺ返しが来るぞ。それは高校時代、君が主治医から言われた通りにね」

僕「僕は自分自身を美化するきらいがある。それを直さないといけない。僕を褒めてくれる人を否定する訳ではないがどんな美男美女でも自分が微妙に見える時はある訳だし、美化しすぎると、過大評価しすぎるとしっぺ返しがくるのかも知れない」

天使「そうだ、よく分かっているじゃないか。私はお前の心と意思疎通出来るようになって良かったよ。昔のお前なら反射的に天使との会話を胡散臭いと思い忌避していたからね」

僕「それほど余裕が出てきたという事さ。文学でもそうだが昔面白くないと思った作品を今読み返すと突拍子もなく面白く感じる事がある。それは余裕が出て、成長したからだ。今の君との意思疎通もその証左さ」

天使「お前は本当に優しい男だな。私が長身美人なら惚れているよ」

僕「ここで恋愛のトレーニングをしておけばいざと言う時に活きるかも知れない。だから僕は全力投球でお前と話している。稀に恍惚を交叉させながら」

天使「そうか、まあ見方は人それぞれだ。私を拒む者もこの世には大勢いる。奸計ではないかと疑って、そんな上手い話があるものかと疑念を提起する者も少なくない」

僕「僕はコミュ力高いと君は思うかい?僕はコミュ力が高い時と低い時があってどちらが本当か分からなくなる」

天使「それはどちらも本当だよ。君に恐怖がなくなればコミュ力も高まるし、逆だと低くなる。結局はお前次第という事だ。お前はルックスに恵まれているし、統合失調症によって精神も鍛えられた、人の痛みが分かるようになったし喜怒哀楽もはっきりしてきた。だからお前次第だ」

僕「最初は喧嘩腰だったのに、そんなに褒めてくれると人格障害を疑うよ。まあでもありがとう。僕はきっとこの先上手くいく。そう信じて生きていく。自分位は自分を信じないと。周囲からの思いを鷲掴みにするには大胆な思考回路を築く事だ。僕はやっと自分の人生の意味に気づけたよ、ありがとう、善」

天使「お前の幸せは私の幸せだからな、しかし誤った方向に行こうとしているのなら助言したりはするさ。私にとってお前は腹心だ。お前ほど私との話相手の適任者はいない」

僕「それは買いかぶりすぎだと思うけど、そう言えば高校時代の主治医に君は自分を過大評価しすぎと言われたな、自分ではそんなつもりはなかったけど。多分彼の錯覚だ。僕自身の元気さが彼の心のスリットによって自信過剰に、いわば卑俗的に映ったのだ。全然関係ない話ですまないね。僕は今唐突に君に話したくなったんだ」

天使「好きな事を話せ。私はお前の味方だ」

僕「僕は長身だよね?」

天使「ああ、色んな人がそう言っているな。私もそう思う。多分前の測った身長計は壊れていたしお前自身正しい姿勢ではなかったからかなり低く測定されたんだ」

僕「僕は本当にこれまで頑張って来たよね?自分のみでそう言うのは虚しいというか、善に言って欲しいんだ。本当のところを」

天使「安心したまえ、君は十分頑張ってきた。死によって人間はありのままになるというのはカフカの名言だがお前もそうなりそうだな。死後には必ず評価されるから安心したまえ」

僕「僕の希死念慮は消える時は来る?」

天使「希死念慮は今後も恐らく続く。その為に出来る事は無理をし過ぎない、それだけだ。健常者でも無理が祟って心身ともに衰耗し、淪落し、死に至る毛^巣も少なくはない。現代人にとって文明により社会が便利になった反面、色々と弊害が生じた。これは多くの人が語っている通りだと思う。私はお前にはそうならないで欲しい。最初は辛辣に話しかけたがそれはお前のオーラがトゲトゲしていたからだ」

僕「世の中には色んな陰謀論が跳梁している。固陋な頭脳ではそれに毒される場合も少なくはない。統合失調症であればより陰謀にはまりやすくなる。自虐的にもなる場合も少なくはない。しかし僕は最初の内から違和感を覚え、精神科に行った。当時は統合失調症という名前を知らなかったが僕は統合失調症と後に診断された。その後にも発達障害や気分障害など、診断名を転々としていた。今の僕の場合は天使である君を眼前にしても統合失調症だと思うよ」

天使「私は君について死なないと思うよ。希死念慮はあるにせよ。強さも内に秘めている。こうして話す中でも十分すっきりしたのではないかな。こういう機会も必要だ。私はお前に多くの事を語りたいし、語り合いたい。プラトンの著作のようでなくても、私はお前と話す事で確かな幸せを感じるよ。だから君には一瞬でも長く生きて欲しい」

僕「最初の趣旨とはずいぶん違うな。天使の中でも多重人格があるのか。まあ良い。僕は今後も君と対話したい」

天使「ちゃんとご飯は食べているか?大丈夫か?」

僕「今日はヘルパーさんが来てくれてハンバーグを作ってくれたよ。随分小さいハンバーグだが良いにおいがして美味しそうだ。もう僕は疲れてきた。それでも何とか君と話すだけの体力は残っているよ」

天使「お前は真面目な性格だから一気にやりすぎる傾向がある。全てにおいて。それを克服する為に休む事は確かに大切だ。しかし耐え忍ぶ事も大切だ、何事からも逃げていればきっと慄然、騒然の現実が待っているだけだ。お前は繊細な神経の所有者だから刺激には頗る弱いだろう。それでも良い、お前はお前の思うように生きれば良い。母親からもそう言われたんだろう?」

僕「そう言えば声だけが聴こえて君の姿が見えない。君の姿を見せてくれ」

天使「分かった」

天使は自分の姿を虚空から現した。すると長身の妖艶な女性が見えた。羽はあった、天使のわっかもあった。

僕「随分と綺麗なんですね」僕はドキドキしながら訪ねた。

天使はこう言った。「本当なら私がお前の彼女になりたいところだが、人間とは性的な事をする事は出来ないのだ。分かってくれると嬉しい」天使は頬を赤く染めながら、うつむいた。

天使「それにお前も良い男だ。私の好みにドストライクだ。だからこそ身分による制限が非常に歯痒く感じる。しかしそれでも対話は出来る。今後も昵懇にお願いしたいと思う」

僕「ああ、今後ともよろしく。僕は君の存在を心の糧にするよ」