僕は外の景色の余りに刺激的な事に思わず眩暈した。人間関係の精髄を僕は求めるようになっていた。また僕はギターで作曲したりユーチューブに動画をあげるという発想もあるにはあったが、物書きとしての立場を放棄する事は辞めたいと思ったのである。僕には自然な高揚感がある。これまで療養して生きてきた中で活発に生きようとしている。いつまでもダラダラ過ごす事にも退廃と倦怠を感じるようになった。
 もう明日には僕は京都に帰る。今は父とリビングにいる。僕はテレビをちらちらと見つつ、この沈黙を享楽している。気圧されるような文学を、僕は創造できただろうか。漸進的に、書くことを僕は否応なしに続ける。頑是ない、晩熟の僕にとっては周囲との比較により、やや焦燥感を抱くようになっている。爽涼な風、テレビからの騒々しい音。
 しげしげと僕の周囲の状況を見つめる事。僕は凝視する、絶望の深淵を。しかし苦悩すれば、苦悩する程偉く見えるものだ。実際はレジリエンスにより、したたかに生き、抗し、統御する事が無手勝流の、僕が探求する人物像なのだ。
 暗い事を考え、劣等感を考え、容姿についても自信が持てなくて、でもそれでも良いじゃないか。完璧な人間はいないとは既に世間を牛耳る一般的な観念の一つである。僕の人生に対するストレスやフラストレーションは既に過負荷ではなくなった。全ては見方次第だ。少年時代にそう僕に言ってくれた人の言葉が下劣で曖昧模糊な自分には理解できなかった。ただ外では小鳥の鳴き声、車の音、学校のグラウンドで部活に精を出す生徒の音が轟々と怒涛の如く僕の耳になだれ込んで来る。僕の身長はどれ程なのだろうか。周囲との比較で190cm以上はありそうだが。もしそうでなければ170cmになった元子役を下に見れなくなる。分かっている、こういう醜悪にして、下卑た心理こそが僕を不幸にしてる。偏見、固執、馬鹿な話だ。
 キラキラと輝く、充実したように見える他人。隣の芝は何とやらとはよく言ったものだ。僕が統合失調症として苦労してきたのは無駄じゃない、その経験があるからこそ、今の開花した僕がいると、前勤めていた作業所で僕に言ってくれた人がいた。天才の一生とはそういうものだ。逆に判を押したようなリア充も中身の軽薄さに懊悩していたりするものだ。僕は無難に過ごせるだけの相貌や風災を手に入れた。もう今後は仔細な事を気にしない事だ。ありのままの僕で素晴らしいのだから。そう思えるようになったのが僕の人生の一里塚のみならず成果物である。
 僕の幻聴は僕の弱みを徹底的に追い詰めていく。それを自我の暴走と一笑に付せれば問題はない。僕の心は鈍感になっていく、それに反比例して強くなっていくら、処世術にも長けるようになってくる。しかし僕はこの和歌山滞在で得たこと、自信を活かして京都に凱旋し、生きていこうと思ったのである。
 引きこもっているのならどこにいたって同じだ。僕はその事にようやく気づいた。京都ではヘルパーや訪問看護がある。人付き合いもそれで慣れていく。
 母が帰ってくると彼女はハンバーグを作り始めた。今日は趣味の武道がないからゆっくり作ることが出来ると言っていた。また僕も自分の手で料理をして長身美人に振る舞えたらなと思う。これは甘美すぎる妄想だろうか。統合失調症は誇大妄想、恋愛妄想、被害妄想が多い。僕はそれらの妄想に心当たりが非常にある。それでも負けずに、生き続ける。現代人の一長一短としてネットの普及が第一に挙げられる。
 今の実家のリビングは暖色の明かりを用いている。また僕は深潭にして味わい深い文章を書きたいと思っている。文豪然とした文章をだ。しかしそうなるには40歳以上になる必要があると谷崎潤一郎も言っていた。
 僕は和歌山で勝利をした。そうすることの意味はあっただろうか?歯を気にしすぎたきらいもあったが、カラマーゾフの兄弟を楽しめた。またゴロゴロと寝転ぶ事も満喫した。まあこれは京都でもやる予定だ。僕は働いた方が良いだろうか?今は多様性の時代である。働かず、障害年金のみで慎ましく生きる生き方もあっても良い筈だ。
 明日遂に僕は帰る。今の僕は働けない。働ける心理状態にない。こんな自分が情けない。でも慣れるべきだ、駄目な部分があってこそ人間なのだから。生きているだけで偉い。それだけで良いのだ。いや、それしかないのだ。
 祖母に電話をかけた。明日京都に帰るつもりだ、先週のドライブありがとうと。そうすると祖父母は次のドライブまで考えてくれていたらしい。それを聞くと肺臓が裂けるような、五臓六腑の抉られるような感じがした。
僕は本当に悲しい。祖父母ももう先は長くない。僕は薬の事情が気になって京都に戻ることを決意したが、その決意が揺らぐ。
 僕は歯磨きをした。もう後は薬を飲んで寝るだけだ。今テレビで面白い番組をしている。外国人観光客を取り扱った番組だ。僕の心痛、他人の心痛、僕の中では平等の重みを持つ。だからこれからは皆を元気にする音声のみの動画をユーチューブにアップしていきたい。