療養〈37〉

 ある時、僕はある男に言われた。「俺の遺恨、呪詛、怨嗟をなくす為にはきっちりとあの悪の組織からの決別をしないと。この書類は俺にとっては非常に煩わしく感じる。退廃を極めたこの世界、ディストピア。俺はどうすれば良いのだ」

「ならその書類を燃やしてしまえば良い。燃やすという行為はストレスを解消するには良いものだ」と僕は言った。

「俺はこれまで多くの人々のお世話になった。この上誰かに迷惑を被らせる訳にはいかない」

「僕が燃やしてあげるよ」すると僕はその書類を手に取りライターで燃やした。衆人環視の中で、雑踏の中で。皆が僕に注目した。僕は自分が注目されているという事に苦痛を感じた。

「ああ、俺の思い出が。しかしこれで良いのだ。俺はどうしても過去と決別したかった」

「僕も過去と決別したい。今後の生活で決別をしていこうと思う。どう頑張っても無理な事でも時間が過ぎれば出来る事もある。過去を振り返る事はこれまで数限りもなくしてきたがそれももう終わりの時期だ」

「俺には分からないが、君にもそういう側面があるのだな」

「ありまくりだよ。僕は別に強靭な戦士でもない。むしろ統合失調症になってからはメンタルなど、煩わしさなどが出て上手く社会生活が送れなかった」

「俺は君の言っている事が分かるよ」僕ら二人は燃え殻を見ていた。ただ佇立して見ていた。「これで僕らは証人だ。不可避的に変わらざるを得ない。まあ退路を断つという事程重要な事はない」

 僕は理屈が分からないまま時間を過ごしていた。まるで自分が何の制約もなく暴走する機械やAIのように思えた。AI、と言えばインドがすごいらしい。日本も頑張らないと、また失われた時代が継続されるだけだ。全く、日本経済の心許なさ、脆弱さ、無能さと言ったら右に出るものはない。政治家などにはちゃんとして欲しい。それなのに政治家は高額な給料だけを得て、議論だの、会談などをするばかりで実際に経済には小心者故介入出来ない。ああいう連中を腰抜けと言うのだ。少しは自分が国を背負っているという自覚を持って、襟を正して仕事をしてほしいものだ。その覚悟もないのに政治家などやって欲しくない。そんなことを考えながら僕は朦朧とした状態でその無意識の中を過ごした。僕は様々な場所を巡ったが、他にあの世界で感じた事は覚えていない。しかし良い気づきが得られたと思う。

ある男、ここではAとしよう。Aは苦渋に満ちた表情を浮かべながら、僕から離れていった。いや、僕が離れたのかも知れない。夢の中では物理法則の埒外にある。通常の記憶順列の連続性も十分に維持出来ているとは言い難い。そして朝10時過ぎ、僕は目覚めた。またあやふやな事柄を憚らず文章に出来る僕はやはりどこかおかしいのかも知れない。