療養〈36〉
僕は今日祖母と話した。夕食を済ませ、時間を過ごしている間に彼女から電話が来た。
「もしもし?」
「もしもし?おばあちゃん?元気?」
「ああ、うん、元気だよ、凌我は何してたの?」
「僕はベッドでゴロゴロしてたよ、テレビもつけてるし、パソコンも使ってる。現代文明の酒池肉林だよね、まあこれは暗喩だけど。僕は療養してるよ、懈怠じゃなく、自分の回復を心から祈ってる。僕は今の作業所を辞める旨を作業所のスタッフに伝えたよ。そのスタッフはまた支援機関の人に連絡すると言ってた」
「そうか、和歌山には帰るの?」
「うん、この水曜に変える予定。連載小説のネタにもなるし、好機だよ。それに教徒の人は何となく和歌山に愛着があるみたい。まあこれな少ないサンプルから帰納した憶測に近いものだけど。でも片道電車乗り継いで行くのは辛いから本当に帰ることが出来るのか不安だ。カフカの城のように辿り着かないのかなあとまで思ってしまう」
「おばあちゃんは文学は分からないけど、京都から紀伊田辺までの特急があった気がするよ。ちょっとその時刻表がある。眼鏡かけて見るよ。ふむふむ、一本のみの特急あるみたいだよ。まあこれは昔のデータだから、今は違うかも。また駅の人に電話で確認して」
「分かった、ありがとう。そう言えば今日は夜に好きなアニメがあるんだ、僕はそれを見るよ」
「そんな遅くまで起きて大丈夫なの?」
「うん、明日は昼までに起きれたら御の字だし、今日も見たら即座に薬を飲んで寝るし」
「そうなのか」
僕は和歌山の祖母を思った。祖母はみるみる内に弱っていっている。もう車の運転も出来ないくらい衰耗しているのだ。僕は本人からそれを聞いてなんとなく物悲しくなった。それを具象化する事は出来ない。僕は彼らとドライブした経験を思い出し、元気を出している。自殺なんてとんでもない。命ある限り遮二無二生きるのだ。
「おばあちゃんはNHKとか見る?」
「見るよ、落ち着いた感じのやつとか時代劇とか」
「100分で名著は見る?四回くらいにわたって名著を紹介、敷衍する内容なんだけど」
「ユーは何しに日本へとかは見るよ。和歌山もアジア人が多くなって、白人は少ないけど、どんどん、変わっていってるよ」
「僕が少年期、青年期を過ごした長閑な田舎がそれほど様変わりした事は容易に想像できる。駅ですら新しくなった」
「うん、そうだね」
「日本へは史上空前の円安で外国人来やすいからなあ、逆はしんどいけど。高齢者も多くなってるし、ネット選挙さえ普及すれば僕みたいな統合失調症やものぐさも政治に参加できる」