療養〈15〉
噂をすれば影が差す。人の噂をしていると偶然噂の本人が現れることがあるということわざ。「彼は赤川君なんかよりずっと良いよ」そう高校時代女子生徒に言われた。当時の僕は異性を軒並み不信していたのでそれを受けても大したショックではなかったが。無論面と向かってではない。噂話としての事である。そこにたまたま掃除中の僕が居合わせた。僕は自分が噂話されている際にその場に居合わせた事が一度ある。が、恥ずかしいのでその事については触れない。ヘルパーが今日は僕の家に来る。月曜日だ。家賃も払って、一週間分のお金を降ろして今はヘルパーを待っている。しばらく経った。噂をすれば影が差す、どうやらヘルパーが来たようだ。下手くそな文章で、事の顛末を語ろう。罵詈はない。では、ヘルパーであるしょうじさんとの会話を記す。
「買い物を携帯にメモしていたのでいつでもいけます、買い物は米を炊き始めてからですか?」と僕。
「そうですね」と彼女。
「昨日鬼滅の刃、見ました。その魅力を饒舌に語る事は出来ませんが」僕はヘルパーにそう言った。
「良いですね、先週見れなかったって言っていましたもんね、見られて良かった」
「髪型変じゃないですか?」
「全然、髪も綺麗だし、男前だし」
そこで僕はモヤっとした。男前?それよりイケメンが良い、イケメンより美形が良い。
「僕はイケメンと言われた事もあるんですよ」
「いや、今もそうですよ」
そして僕は料理をきざんで、しょうじさんは炒める事になっている。今日の夕飯はチンジャオロースである。
「赤川さん、もう調理は済んだので座っていても良いですよ」としょうじさんに言われたので僕は座った。「お母さんは小柄ですよね?前も言ってましたもんね」
「そうなんです。僕だけ長身で」
僕はまた彼女に言った。「ヤフーショッピングで買い物したものキャンセルが出来なくて、返金してもらうには特定の住所に返送しないといけないのです。そこで届いたら即座に返送したんですがまだ返金はこないです。もう着いている筈なんですけど、追跡番号も分からないし」
「そういうのは私はよく分かりませんね。なんかすごいですね」と彼女は言った。また彼女はイケメンと男前も同じ意味で使っているようである事が判明した。
僕は浴室に行って自分の姿を鏡で見た。
「見え方とか気分で自分の外見が変に見えたり良く見えたりしますね」
「すごいですね、それだけで詩が書けそうな程」僕にはその慧眼、着眼点こそが彼女の清冽なリリシズムの証左に思えた。「この前お母さんが来た時帰りに抱擁したんです。それで彼女から大きくなったねと言われました」
「良いですね、素敵ですね」