1986年(昭和61年)10月21日(火) イドラ島

 

 夜は日本でのようにテレビを見るわけではないから長く感じる。夕食を早めに済ませると、部屋に戻って日記をつけたり本やガイドブックを読むなどすることはあるが、それでも暇を持て余す。夫との喧嘩が一番の時間つぶしかもしれない。
 夫はさっそく‘Let's Go Europe’を読んでいる。私が日記をつけているときもお構いなしに話しかけてくる。私は集中できないから後にしてといい、後で話を聞こうとしたら話さない。夫は押し付けがましいか高飛車に話すところがある。


 朝はパンを買いに行った。昨日と違ってさわやかに晴れ、空気も澄んで気持ち良い。まずヨーグルトを買い、パン屋へ行く。パンはどれもおいしそうで、バターも買った。そのベーカリーのおばさんにヨーグルトの値段を聞かれ124ドラクマと答えたらあきれた顔をしていた。またぼられたんだと気づく。ツーリストだからと甘く見られたことに腹が立った。
 でも、ここでは定価がわからない。インフレで値段がどんどん上がり、はっきりと明示していないのだ。アテネでもそうだった。レストランにはメニューが貼り出され16%ぐらいのサービス料も含めた値段が書いてあった。でもギリシア語が多く、内容も分かりにくい。


 ギリシアに着いた日のこと、プラーカのカフェでスパゲッティを頼むと、分厚いビーフステーキを勝手に持ってきて断り切れず食べたら1430ドラクマもかかってしまった。それに懲りてなるべくツーリストの多いところでは食べないようにしていた。でも、一昨日シンタグマ広場で一杯100ドラクマのエスプレッソコーヒーを2杯頼み、1杯80ドラクマのデミタスカップ入りグリースコーヒーが出てきて合計210ドラクマだった。これも不思議だ。大体そういう場合、Bill(請求書)が来ない。
※当時のレート 1ドラクマ=1.26円

 そういうトラブルを避けたくて田舎に来たのに、ここもツーリストプライスだった。今はシーズンオフで泊り客は少ないものの、毎日ツアーのクルーズで団体客が大挙してやってくる。日本人も多い。彼らはお金はあるが時間がないから高くてもほかの値段と比較せずポンポン買っている。それでツーリストプライスになる。安くあげようとするが長くいる旅行者にはいい迷惑だ。
 たしかに中国、タイ、ネパールもローカルプライスとツーリストプライスがあったし、外国人から外貨を稼ぎたい国もあった。しかし、インドは遺跡などの入場料に外国人とインド人の差がなかったようだ。なんだかインドびいきになっているが。


 夕食に昨日と同じところへ行って昨日とあまり変わらないものを頼んだのに、1400ドラクマだった。そこのウェイターがいい加減に計算しているようだったから、請求書を見せてくれと言った。頑張って書いて持ってきたが、内容がおかしい。ひとつひとつ聞いて計算したら1200ドラクマになった。それでも昨日と比べ、また隣のカップルと比べて(彼らはワイン1本にいろいろ頼んで800ドラクマ)、高いような気がした。せっかく絵本にでも出てきそうなこの町の印象を悪くしたくない。かわいい猫もいるというのに…〈Pension Agelika〉