ガンジャ(大麻)は日本では非合法ですが、インド・ネパールでは普通に道に生えていて珍しくありませんでした。日本でも昔は自生していたかもしれませんね。それを乾燥させて紙にまいてタバコのように吸ったり、エキスをパイプに詰めて吸ったりしてましたが、クッキーに混ぜたものも普通に売っていました。他の覚せい剤などのように化学物質ではないから、常習性もあまりないようです。もちろん、この日本ではおすすめ出来ません。私の使用は既に時効です。

 

1986年(昭和61年)4月4日(金) ポカラ

 

 一昨日のガンジャがやっと抜けて、家計簿や日記、ノートつけをした。書き出すと止まらない。
 昨日からここに来ていたカップルに味噌の作り方を聞かれた。夫は得意そうに説明していた。二人はアフリカや南米にも行っていていろんな情報をもらった。
 続いてトレッキングを前に植村直巳著の「エベレストを越えて」を読み始めた。「森の生活」は4分の1くらいでストップ。植村さんのエベレスト登頂成功で本を置いた。夕立の雨雲が空の隅に行ってしまってから部屋を出た。
 昨日約束したハルオちゃんたちにトレッキングに必要なものを聞くためだ。レイクサイドを歩いていたら「ジャパニー!」という声が上からした。ハルオちゃんたちがレストランの屋上で気持ちよさそうにビールを飲んでいた。
 ハルオちゃんはまた派手なポンチョ(半纏)を着ている、結構似合っていてセンスいい。アキオちゃんやゆうちゃんと一緒に楽しくしゃべりながら夕食をとる。
 レストランを出て寒くなった時用にウールの手編みセーターを100ルピーで買った。朝晩は冷えるのだ。
 チベッタン食堂でガンジャクッキーを食べる。ハルオちゃんはますます頭が冴えて彼の口から言葉が機関銃のように出てくる。彼の豊富な知識には夫も脱帽していた。彼みたいなキャラクターは珍しい。スルジェハウスの日本人にはいないと思った。ベッドに入りまた宇宙や時間の話をして眠る。〈Surje Guest House>
 
4月5日(土) ポカラ
 
 明日からのトレッキングの準備もあるのに、朝からぼんやりしていた。それでも頑張って日記をつけるが途中で何を書いていたか忘れ、何度も読みなおさなければならなかった。植村さんの「エベレストを越えて」も文の内容がトンで読み進められない。やっぱり昨夜のガンジャが残っている。
 それなのにまたクッキーを食べてフラフラし始めた。体が重いし本も読めないから横になるが、眠るわけではない。目を閉じて体はしびれたようになっているが、耳は冴えていていろんな音が耳に入ってくる。だから、空想が大きく広がる。
 まず、子どもの泣き声。家庭の様子が手に取るように見えた。次はハーモニカの音。最初は下手だったけどだんだん上手になっていく。心の中で私が思った音階が聞こえる。そうか、私がテレパシーを送っているからだ。夫にそう言うと笑って「ハッピーだねぇ」。
 眠っているのか起きているのかわからない状態が続くので、一大決心をしてシャワーを浴びることにした。ソーラー式なので今日は曇っていたから暖かいシャワーは出ず、水の冷たさが体を目覚めさせた。
 しかし、まだ後頭部にしびれが残っていて、濡れた髪をふいてしばらく裸のままでいたような気がする。パンジャビードレスに着替えるのに苦労した。
 スルジェハウスの夕食は天ぷらで、その中に埋没する。天ぷらの形が氷山のようで私の目の前に立ちはだかっているのだ。これはいったい何だろうと思った…
 今日はここスルジェハウス最後の夜だから食堂でみんなとバックギャモンとかしたりおしゃべりしたかったけど、またガンジャが回ってくると明日からのトレッキングに差し障るから、早々に部屋に引き上げることにした。<Surje Guest House>