カルカッタで初ガンジャ体験です。日記だからウソは書けません。当時は(今も?)インドやネパールで大麻(ガンジャ、ハッシッシ、グラス)が自生しているのをよく見かけましたし、売るのはどうか知りませんが、買うのは違法ではなかったようです。

 

1986年(昭和61年)2月26日(水) カルカッタ

 

 朝6時前からみんな起きだしている。カルカッタ着は7時半だというのに気の早いことだ。
 昨日は顔を洗う時歯ブラシを口に入れたまま水が出ないことに気づいた。今日はなんとか水が出た。
 しかし、白のシャツと帽子がいつの間にか黒くなっている。中国と同じだ。白は汚れが目立つ。蒸気機関車じゃないのに、スモッグかまわりの汚れか。
 中国で上海という大都会に行った時のような喜びはない。インドの田舎はまだ10日ぐらいだからだろう。みんなカルカッタはほかのどの都市より汚くて厳しいと言う。ハウラー駅に降りて身構えていたが、ほかの都市と大差ない。
 ただ、駅のトイレにはびっくり。掃除中で水浸しの上ウンコがいっぱい浮いている。その中でしかもドアも何もないところで用を足せというのだ。出したいと思っていたウンコも引っ込んでしまった。
 さて安宿のあるサダルストリートまでどうやっていくか。夫は客引きの激しい白タク15ルピーで手を打とうとしたが、私は10しか払うつもりはなかった。
 交渉に応じないので仕方なくインド人のほとんどがしているようにタクシー乗り場に並ぶ。かなりの行列だったがタクシーも次々来るからわりとすぐだった。
 途中で同じサダルストリートへ行く客を乗せた。着いた時のメーターは7.75ルピー。メーター通り払おうとしたら新料金で9ルピーと言ってきたが、8ルピーしか払わなかった。
※当時のレート 1ルピー=15.8円
 ホテルはリットンやフェアローンはすぐ見つかったがどこもいっぱい。近くの安宿Capital Guest Houseにした。
 男の子がついてきて部屋を決めた後、10パイサやろうとしたら10ルピーといった。私はつい強く‘No!'といったが、あまり悪気はなさそうだったから何もかも‘No'というのはかわいそうだったと思う。
 シャワーを浴びてすっきりしたが、夫はかゆいかゆいと言っ着ているものをすべて脱いで洗濯しようとする。
 シュラフも屋上で干す。その間盗られないように付いていなければならない。ちょっと神経質すぎるのではと思ってしまった。
 昼食後パークストリートまで歩く。フィリピンのアキノ新大統領の記事に話題。本屋に美術書がまあまあ揃っている。日本人も時々見かけた。ここはネパール人や華僑、モンゴロイド系の人が結構いるからあまり話しかけないことにした。
 ホテルの部屋に戻る途中の階段に日本の週刊誌があって、その一冊をめぐり夫婦喧嘩。食べ物でなく…結局うっぷんを晴らすために、夫はお酒ではなく手に入りやすいガンジャを買ってきた。これまで何度も声かけられていたから、手に入れるのもそれほど難しくなかったようだ。
 タバコに混ぜて吸ったが一本目は何ともない。二本目も吸うが変わらない。三本目くらいで夫は酒に酔ったようでフラフラすると言った。私はあせって三,四本目を慌てて吸った。
 だんだん目の前に霞がかかってきて、足がしびれふわふわする。でもなぁんだ、こんなものかと思ってさらに吸った。
 夫が蛍光灯を消して青いシェードの電灯に変えようとしたころ、突然いろんな考えや情景が一瞬見えた。それは広大な宇宙だったり有機化合物の化学式や幾何学の数値だったり…しかもほんの一瞬なのに測り知れない無限のものを見たような気がする。
 突然これがガンジャの妄想だと気づいておかしくなりケラケラと笑う。それからは今がわからない、どこにいるのかもわからない、さっきズボンを履き替えたのがずいぶん昔のようだった気がする。
 ふっとそうかここはインドかと思う。部屋の隅の天井を見る。それがひどく遠くに見えたりする。そいういう不思議なことがいっぱいあった。
 よし、これは覚えておこうと思ったら一瞬すべて忘れ、またさっきのことを思い出して夫に「さっきこんなことしたよね」なんて確かめるが本当ははっきりしない。
 夢が醒めたと思ったらそれはまた夢で、その夢が醒めたと思ったらまたそれも夢だった…という感じ。
 夫にそう伝えようとするが、突然違う考えが起ってきてつじつまの合わないことを言ってしまう。訳の分からないことを言っているときは気付かず、しばらくしておかしなことを言っていると気づく。
 ただ、理性は失っていないつもりだった。例えばおしっこをもらすとかはさすがにしない。寝る前に一大決心をしてトイレに行った時は夢でおしっこをしておねしょをしたような妙な気分だった。
 しかしふっとこのままこの夢は醒めないかもしれないと怖くなる。これ以上吸ったらもっとおかしくなるという理性が働いた。
 まあどちらかというと恐怖よりおかしくてたまらなかった。おかしなことを考え、言い、している自分がおかしかった。夫の言うこともかなりおかしい。なんかゲラゲラ笑っていて、ある意味とても平和的になる。
 時間の感覚がないので、何度も何度も時計を確かめて1時過ぎて寝ようとした。ベッドに横になっても部屋の隅がひどくとんがって見えたり、教会に見えたりする。明日起きてこの夢が覚めているかどうか、また普通に考えられるようになるかどうか心配しながら眠った。〈Captain Guest House〉