1986年(昭和61年)2月17日(月) オーランガバード
また昨夜ひどく咳きこんだ。眠いのに咳が出て苦しい。がらんとしたレンガ造りの部屋だから、自分でもやかましいくらい音が響く。
今朝は11時くらいまで寝ていた。残念ながら部屋は北西向きで薄暗い。この国は暑いからどこも窓が小さくしてある。列車もそうだった。 |
オウランガバードに一泊して翌日はエローラ観光が一般的らしい。ここのホテルからも観光バスが出ているが、私たちはジャルガオンまで10日近く日程がある。ここオウランガバード観光にも一日さける。
デカン高原の「タージマハル」と呼ばれるビビ・カマクバーラまで、観光バスがないのでタクシーで行くことにした。 |
タクシーというよりオートリキシャだが、いつも乗る前に料金の交渉に時間がかかっていたのに、ここはメーター制だった。これは当たり前と言えば当たり前だが、ほっとする。
6.7ルピーでおつりはいらないといった。反対にオウランガバード石窟に行ったときは細かいのがなく、何パイサかまけてもらった。
どこかで余計に払えばどこかで負けてくれる。鷹揚なのかバクシーシと捉えるのか。どこかで誰かに親切にしてもらったら、自分も誰かに親切にする。そんな考え方がインド的なのかもしれない。 |
アウラングゼーブ帝妃の墓は確かにきれいだった。ダッカにこういう遺跡はなかった。入場料わずか50パイサ。インドという国は金持ちなのか。少なくとも中国のように外国人だけ高く取ったり、タイのように観光地は高く取ったりしない。案外アグラのタージマハルの入場料は高いのかもしれないが。 |
たくさんのインド人団体さんが来ていた。あまりいい服装ではない人たちも。中国でもそうだったが、みんな旅行が好きなんだ。 |
きれいに手入れされた庭を歩いていると時々素早く目の前を横切るものがいる。よく見たらリスだった。
いろいろな動物が人間と共存している。これが本当なのかもしれない。日本などのように動物は動物園でしか見ないというのもなんか変だ。人間以外の動物が普通にいていいはずだ。 |
耳の毛が長い犬とも仲良くなった。犬や猫とは言葉が通じなくても、気持ちが通じるからいい。言葉が違う人間同士気持ちが通じるのは案外難しい。言葉が同じでも通じないときはあるが… |
オウランガバード石窟は蘭州の山のようなところの中腹にあった。仏教窟で敦煌のつくりと似ている。窟の中に内陣があり後ろも回れるようになっている。本尊の前にいる菩薩が美しい。
中国やタイに比べるとよく残っている。タイでは石窟というものを見なかった。僧が山にこもる必要がなかったのか。 |
ある石窟の前では土地の老女が呪文のような歌のようなものを低く唱えている。それが窟内に心地よく響く。柱に掘られたレリーフを見ながら、ああ、インドに来たと実感した。感動して涙ぐむ。 |
スケッチしているとたくさんのリスが寄ってきた。息を殺してじっとしていると1メートル近くまで近づいてきた。食べ物を探したりケンカしたりせわしないが、両手で食べるしぐさがかわいい。
そういうのを楽しめるのは時間に余裕があるから。最高の贅沢だ。反対側の第7窟でもスケッチできた。その間夫は昼寝して待っていてくれた。 |
途中で日本人夫婦がタクシーを乗り付けて来た。インド大使館員らしい。「ニューデリーに来たら寄ってください」と言われたが、果たして本当に行って相手してくれるだろうか。大使館員は当てにならないと思っているから。 |
帰りはビビ・カマクバーラまで働きに来たという人と一緒に歩いて帰る。歩き疲れた後の甘いチャイがおいしい。ホテルでお湯の出るシャワーを浴びて生き返るようだった。〈Goverment Holiday Camp〉 |