空間の記憶(13) | ゴトーを待ちながら

ゴトーを待ちながら

尽きかけている命の日々に、こぼれていく言葉のいくつか。

「どうして私の名前をご存知なんですか?」と私は尋ねた。

「私どもに探してほしいと言うご依頼がありましてね」

「誰から?」

「お名前は申し上げられないのです。匿名にしてほしいということでしたから」

誰だろう?

まず頭に浮かんだのは母親だった。

まさか! 家出をしてから十五年以上になるが、これまで何の接触もなかった。今になって急に探すというのも変だ。そもそも、あんな性格の母が匿名を使うとも思えない。

別れた妻? それもありえない。最後には、互いに憎みあい、何も言わずに去っていったのだから。

私は首をひねった。

私の頭には、誰の名前も浮かんでこない。

「その人、私の知人ですよね?」

紳士は、唇をきっと引き締めた。

「それも申し上げられないのです。ご依頼主からは、完全に名前を伏せてくれと固く言いつけられておりますので」

「それで、なぜその人は私を探そうとしているのですか?」

 

彼は、言葉を選びながら、ゆっくりと答えた。