「どうして私の名前をご存知なんですか?」と私は尋ねた。
「私どもに探してほしいと言うご依頼がありましてね」
「誰から?」
「お名前は申し上げられないのです。匿名にしてほしいということでしたから」
誰だろう?
まず頭に浮かんだのは母親だった。
まさか! 家出をしてから十五年以上になるが、これまで何の接触もなかった。今になって急に探すというのも変だ。そもそも、あんな性格の母が匿名を使うとも思えない。
別れた妻? それもありえない。最後には、互いに憎みあい、何も言わずに去っていったのだから。
私は首をひねった。
私の頭には、誰の名前も浮かんでこない。
「その人、私の知人ですよね?」
紳士は、唇をきっと引き締めた。
「それも申し上げられないのです。ご依頼主からは、完全に名前を伏せてくれと固く言いつけられておりますので」
「それで、なぜその人は私を探そうとしているのですか?」
彼は、言葉を選びながら、ゆっくりと答えた。