夢と人格 | ゴトーを待ちながら

ゴトーを待ちながら

尽きかけている命の日々に、こぼれていく言葉のいくつか。

 最終的に成実が自分のもとに戻ってくるなら、赤城原は成実の一時的な行為を容認するだろう。それなら興信所に依頼して調べる必要はあるまい。最初から何も知らない方がずっといい。
 ただし、夫として傍観してよいということではない。何らかの手を打っておくべきだ。
 赤城原が考えたのは転居だった。現在の住まいから遠く離れた場所に引っ越したなら、物理的に逢い引きが困難になるはずだ。
 その条件にそって、赤城原は現在の住居を選んだ。しかも、一軒家ではなく、人目のあるマンションにした。
 引っ越すにあたって、成実は激しく抵抗した。その時の葛藤は現在まで尾を引いている。しかし、それも時間が解決してくれるのではないか…

 リビングで音がした。成実が起きたようだ。時間を見ると、すでに十時を過ぎていた。
 赤城原も、リビングへ行った。成実は、ミネラルウォーターのペットボトルを手に持ったまま、外を見ていた。
「おはよう。今日も降ってるのか?」赤城原が言葉をかけた。
「いや、久しぶりに晴れだわ。暑くなりそう」成実は、外に視線を向けたまま答えた。
「そうか。それじゃあ、久しぶりに外食しないか?」
 二人は車で出かけた。成実があっさり外食に同意したので、赤城原は機嫌が良かった。どうせなら美味しいところにしようと提案し、隣町のステーキ屋まで行った。
 テーブルにつくと、赤城原はさっそくビールを飲み始めた。成実はウーロン茶だ。彼女は、煙草はよく吸うがアルコールは一滴もとらない。したがって帰りは成実が運転することになる。
「どうだい、木彫りの調子は?」
「鎌倉のショップからまた注文が来たわ。来月までに、あと二三個作る」
「好評じゃないか」
「夏休み前だから在庫を持っておきたいんでしょ」
 成実は、赤城原と結婚する前から木彫りをやっている。