夢と人格 | ゴトーを待ちながら

ゴトーを待ちながら

尽きかけている命の日々に、こぼれていく言葉のいくつか。

「浮気のこと?」
「ええ」
「人によるだろう。オレはもう枯れちゃったからな」
「奥さんも同じですかね?」
「何、うちのカミさん?」
「ええ」
「あはは、冗談は止めてくれよ。うちの女房はもうオバサンだよ。他に男ができて出ていってくれたらうれしいくらいだよ」
 口では笑ってごまかしたが、実際のところ赤城原の心臓はどきりと動いた。サングラスの奥にある男の目が一瞬光ったように思えたからだ。この男は、オレについて何か予備知識を持っているかもしれない・・・そんな疑念が頭をよぎった。まさか・・・男はビールを口に運びながら、にこにこと笑っている。そう、そんなことがあるわけがない。
「ところで、オレについてはどう思う? どんな職業だと思うかね?」
「うーむ、難しいけど、きっとサラリーマンでしょうね」
「当たりだ。見りゃわかるか、あはは」
「お勤めは、海か船に関連した会社でしょうね」
「・・・」赤城原はぽかんとして相手の顔を見た。
「所属は、検査とか管理の部門ではないですか」
「・・・」赤城原は、しばらく返事がでなかった。全て当たっているのだ。会社は船舶関連の機械を作っている。所属しているのは技術管理部だ。