港町 | ゴトーを待ちながら

ゴトーを待ちながら

尽きかけている命の日々に、こぼれていく言葉のいくつか。

 ねえ、あなたが卒業した中学校って、ここから遠いの?
 少しね。さっきの運河を上流に歩いていったところにある。どうして? 見たいわけ?
 いや、私は別にどうでもいいけど、あなたが見てみたいんじゃないかなと思って。
 特に見たいとも思わないね。いや、どちらかと言えば、避けて通りたいかな。
 どうして、と妻が目を丸めた。そんなにイヤな中学生時代だったの?

 友達はいたけどね、いろいろ。でも、どちらかといえば仲の良いクラスメートって感じかな。運動の部活でもやっていれば、少しは違っていたかもしれないけどね。オレは弁当屋の手伝いが待っていたから、クラブに入るのは無理だった。
 でも、たしか文化部に入っていたって言ってなかった?
 ああ、化学部ね。あれは土曜日の午後だけだったから。
 へえ、どんなことをやるの?
 薬品をいろんな濃度で混ぜ合わせて性質を調べてみたりとか、化合物から一つの成分だけ取り出してみたりとか、そんなことだよ。
 面白かった?
 まあね。先生がとっても良い人だったし。