ブッダ時代のインドがどんな勢力図だったのか。どんな政治体制で、どんな権力を持っていたのか。民衆の生活はどうだったのか。
仏典を読んでいて、当然わいてくる疑問だ。
その疑問によく答えてくれるのがリス・デイヴィズの著作である。その一部は、戦前から日本語訳が出ている。日本の学者もおおいに参考にしたと思われる。
そのうちの面白い一冊を翻訳しようと試みた。ずいぶん昔の話しだが。
しかし、あまりに時間がかかるので、途中で放棄した。
今読むと、いろいろと興味深い内容だ。未完ではあるがブログとして残しておく。
その後、これには邦訳がすでにあることを知った。止めてよかったと思っている。この邦訳を私はまったく参照していないのだが、私の訳より正確で優れていることは言うまでもないだろう。興味のあるかたは、ぜひそちらを参照してほしい。
(邦訳:T・W・リス・デヴィッヅ著『仏教時代のインド』中村了昭訳、大東出版社、1984年。)
Buddhist India
by Rhys Davids (1903)
ブッダ時代のインド
リス・デイヴィズ
ブッダ時代のインド
第1章
国王
仏教が始まった頃のインドでは、絶対的な君主というものが存在していなかった。もちろん王権は知られていなかった。
仏教のずっと以前に、ガンジス川の谷間に、数世紀にわたって国王がいたが、インド全体が君主的政府によって統一される日は近づいていた。
仏教が、ごく初期の段階から強い影響力を持っていたインドの諸地域では、貴族政治による共和国がいくつか残ってはいたが、その他に、きわめて大きな領地と権力を持つ王国が4つあった。
また、ドイツのおける伯爵領や、七頭政治時代に分割されていた英国などと同じように、小さな王国が十数ヶ所あった。これらは、政治的にはそれほど大きな力を持っていなかった。
これらの領地や共和国は、隣接する王国へ次第に吸収されていく傾向が、すでに顕著に見られていた。
現在我々に残っている史料だけでは、国土の大きさ、国民の数、統治のやり方などについて詳しく知ることは困難である。仏教台頭前のインドにおける政治制度史を追っていこうとする試みも、現在まで行われていない。
したがって、我々が言えることは、多少なりとも力の強い君主国と隣り合わせで、全体的または部分的な自治を獲得していた共和国がいくつか存在していたという、仏教の記録によって明らかにされた事実だけである。
これらを比較してみるのは、たいへん興味深い観点だ。