Jaejoong’s  Garden  3 | みーうさの巣

みーうさの巣

2015年末よりユンサンヒョンさまにハマる
その後ユチョン→JYJ→東方神起→オルペン・ユンジェペンに漂着
ユンジェ小説書いてます。
イイネとコメントは泣いて喜びます。
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「美味かったよユノ。じゃね、もう来んなよ」
 いきなりのキスにびっくりしている間に家を追い出された。背中を押された流れでそのまま歩き、駅に着く頃にやっと正気に戻った程にぼーっとしていた。そう言えば、いつの間にか体調も戻っている。
「なんだ、 どういう事?  ウマい、何が、 もしかして上手い、キスが、いやいや完全受け身だったよな。あっ。」
  改札前で突然立ち止まった俺を、怪訝そうな顔で高校生が追い抜いた。
 「人工呼吸か? 意識はあったけど結構ヤバかったのかも」
  そっか、そっかと納得して改札を通り過ぎた所で、俺は又立ち止まった。今度は後ろにいた人に追突されてしまった。
「すみません」
「いえ、俺こそすみませんっ」
  ペコペコとお辞儀をし、相手に先を促してから歩き出した。
「トルハルバンの事すっかり忘れてた。週末にでも、もっかい行こうか、肝心な庭の話もしてないし、あーもう何しに行ったんだよ」
モヤを振り払うように、くしゃっと頭をかいた。
「それにしても何か不思議な気分だな」
  ホームに立つ俺の前に各停の電車が滑り込んできた。いつもなら見送って急行を待つところだが、心のざわつきが治まらない俺は、招くように開いた扉から電車に乗り込んでいた。


  あの時彼が飲んでいた液体が何か分からない俺は、デパ地下をウロついて目に付いた赤い飲み物をいくつか仕入れた。そして、上階にある食器売り場で割れてしまったコップの代わりを探した。
「100年くらい前のベネチアのコップって売ってますか?」
  そう尋ねると、店員は「こちらへ」と俺を売り場の奥へ案内した。そこには宝石売り場のようなガラスケースがあり、中に美しい硝子製品が並べられていた。
「一般的にベネチアングラスと呼ばれていますが、本国イタリアではムラーノグラスと言います。ムラーノ島の職人によって一つ一つ丁寧に作られた物が本物のベネチアングラスだからです。特徴としては鉛を含まないソーダ石灰を使用している事と、コバルトやマンガンを混ぜ大変色鮮やかな装飾を施してある物が多いという事でしょうか。お客様が仰られた100年程前の製品となりますと、当店ではこちらのワイングラスのみになります。もしお取り寄せが必要でしたら…」
  説明を聞きつつ値札を確認した俺は「す、す、すみません」と、思わず話を遮ってしまった。
「はい、お気に召しましたか?」
  店員がニッコリと笑った。
  安い物では無いだろうとの予想はあったが、桁が違いすぎた。しっかり説明を受けた後で申し訳ないが、俺は100年前を諦めそれでも自分にしたらかなり高価なグラスを選んで包装してもらった。気に入らないと言われても仕方がない。気持ちだけでも受け取ってもらうとしよう。


  土曜日、今回はちゃんと門の方に回ってチャイムを鳴らした。朝ごはん?を邪魔しちゃいけないと思い、時間も前回より少し遅めにしてみた。
  ピンポ~ンじゃなくて、カランコロ~ンと言うかコルロ~ンと言うか、そんな感じのチャイムが家の奥で鳴っているのが聞こえた。
  シーン…
  コルロ~ン
  シーン…
  コルロ~ン、コルロ~ン
  シーン…
  コルロ~ン、コルロ~ン、コルロ~ン
  シーン…
  さすがに諦め時かと思った時にカチャっと、玄関ドアが少しだけ開いた。
「あ、ごめんください。あの俺、ユノと言いますが、先週こちらでお世話になりまして、今日はお詫びとお礼にまいりました」
 扉に隠れた存在が、あの人なのか別のご家族なのか判断はつかなかったが、この機を逃すまいと俺は真鍮の門扉越しに体を乗り出すようにして声をかけた。
  シーン
  反応がない。怪しいセールスマンだと思われたか?
  首をのばしたまま暫く待っていると、ドアの隙間からニョキっとあのお兄さんの顔が半分だけ出てきた。なんだか眉をしかめていて不機嫌そうだ。
「こんにちはユノです。もしかしてまだ寝てました?  起こしちゃいましたか?」
「なんでまた来るの」
  半分ひとりごとみたいな小声でお兄さんが言った。
「先週のお詫びとお礼に来ました」
「そうじゃなくて、な、ん、で、覚えてんの」
  お兄さんはスルリと出てくると、扉の前に立った。細身のジーンズに白くて丈の長いシャツをひらりと着こなしている。
「なぜって、だって一週間前の事ですよ。さすがに覚えてます」
「全部?」
  お兄さんが顔を傾げると、頭の上で括った前髪も連動して揺れた。
「たぶん…全部だと」
  質問の意図が分からず、俺も首を傾げながら答えた。
「ふ~ん、ま、いいや。オレも用あるから入っていいよ」
「はい、お邪魔します。実は相談したい事もあるんです。先週もその話で伺ったんですよ。あ、それと猫ちゃんがキーホルダーをですね、」
  喋り続ける俺に構わず、お兄さんはくるんと背を向けて家に入ってしまった。俺は慌てて門扉を開け、ニ段ある玄関ポーチを一足飛びで上がった。

「珈琲でいい?」
「はい、でもお構いなく」
  前と同じ部屋に通されソファに座った。多分、前回倒れ込んだソファだ。
  今日はカーテンが全開でテラスに面した庭がよく見える。健やかな草花が風に揺れていて、とても幸せそうだ。
「これでしょ」
  お兄さんは、珈琲のカップと一緒にトルハルバンのキーホルダーを俺の前に置いた。
「拾ってくれたんですね。ありがとうございます」
  「あんたが帰った後、部屋に転がってた。ノアが、うちの猫がやったんだろ。紐が切れてたから勝手に付け替えたし、ごめん」
  受け取ったキーホルダーは、前とは違う茶色い革紐で括られていた。これはこれで丈夫そうでいい。
「修理まで、本当にありがとうございます」
「悪いのこっちだし、お礼はいいよ。それよりお前なんで…いや、まぁいいか。珈琲飲んだら帰って」
  お兄さんはそう言うと向かいに座り、カップを手に横を向いてしまった。なんだかシャッターを下ろされたような空気。俺は仕方なく黙って珈琲に口をつけた。苦味と酸っぱさを感じる大人っぽい味だ。
  普段飲むのはインスタントコーヒーで、砂糖もミルクもたっぷりと入れる。それを「ユノカフェ」と名付けて、ばあちゃんと二人でよく飲んでいた。朝はパンと一緒に、夜はミルク多めに、休みの日はお菓子をつまんだりTVに文句を言ったりしながら向かい合って飲んだものだ。
  全然違う味だと言うのに、急にそんな光景が頭に浮かんだ。
  静かな時間が流れる中、ふと視線を感じ顔を上げると、お兄さんが俺を見ていた。話しかける間もなく、すぐに又そっぽを向いた横顔を見ながら、改めてこの人がどういう人なのかが気になった。
  理想的なラインの美形な横顔と羽衣のように透けるシャツを着た姿は天女を思わせる。年は俺より若い20代半ばくらいだろうか?  口調からあまり歓迎はされていないようだけど、キーホルダーを修理してくれてたから基本優しい人なんだろうとは思う。
  でも、俺が勝手に約束した庭の手入れに協力してくれるのかは…ちょっと無理っぽい気がするよな。
  いやいや諦めるな。まずは友達になろう。
「あの、名前は」
  そう聞いただけなのにジロっと睨まれた。
「人に名前を聞く時にはまず自分から名乗るもんだし」
  えっと
「俺何度か言ったけど。それに前回名前で呼んでくれたと思うんですけど…ユノです。チョン・ユノ」
  お兄さんはハッとした後に、むっと顔をしかめた。
「伝わってないのは言ってない事と同じなんだもん」
  明らかに自分のうっかりを誤魔化しているんだろうけど、拗ねた物言いが可愛いかった。ちょっと距離が近づいたかもしれない。
「ごめんごめん。で、名前は?」
「…キム…ジェジュン」
  不服そうだけど名乗ってくれた。
「じゃあ、ジェジュンって呼んでもいいよね。それに年下だろうから、もう気楽に話すね」
「やだ」
  一刀両断。
「えぇ…あ~えっと、じゃあジェジュンくん、実は頼みがあるんだけど」
「それも」
「それも?」
「やだもん」
「もん?」
「もん!!!」
  プンっと膨れてそっぽを向いてしまった。
  
  無茶は承知だったが、どうやらとてつもなく前途多難なようだ。


FlowerGarden発売でめでたいからこっちのGardenもちょっと開いてみました。