春一番が吹いた。

 もうすぐそこまで春がきているのだろうか。

 

 夕方になって外に出てみたら、群青色の夕空に釣り船のような三日月が浮かんでいた。

 

 風はまだ収まっていなかった。

 

 帽子を抑えマフラーをなびかせながら、路地を渡ってゆく。

 

 この薄暗い路地を抜ければ、最近知ったワインBARがあった。

 

 店の前に来ると、ランプの灯った入り口には、「OPEN」の看板が出ている。

 

 

「こんばんは」

 

 ドアを開けそう声をかけると、マスターがカウンター越しから「いらっしゃい。お久しぶりですね」と言う。

 

「今日は風が強かったですね。あ、ワインは国産の赤をお願いします」

 

 この店には美味しい国産ワインが置いてある。マスターの友人が手間暇かけて育てた無農薬のブドウを醸造して作り上げた限定生産品だという。

 

 その瓶を見せてもらうが、ラベルにはたくさんの花々の上を飛び交っている数羽の蝶の絵が描かれていた。ワイン製造者自ら描いたものだそうだ。

 

「へえ、作り手の気持ちが伝わってきますね。多分、優しい人なんだろうな」

 と言うと、マスターは、

 

「女性の方なんですよ。もともとワインが好きで、それが高じて自分でもワインを作りたいと思うようになって、山あいにブドウ畑を作り小さなワイン工房を始めたんです」

 

 と話した。

 

 しばらくしてカウンターに、注文していた合鴨スモークとブルーチーズが並んだ。

 

 そしてワインを注いでもらい、一口味わう。

 

 フルーティで芳醇な香りと、樽の香りがする。

 

 もう一度、ワインのラベルをよく見ると、上の方に今宵のような三日月が描かれていた。

 

 このワインの作者はきっと自分と同じ三日月愛好家なのだろうと思い、ワインの酔いも手伝い、急にシンパシーが湧いてきたものである。